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俺の彼氏がモテすぎる件について。
ジリジリと照りつける太陽の陽射しが、肌を刺すようだ。
「おい、雪!お前、日焼け止めちゃんと塗ったのか?」
「ええ〜塗ってないけど、大丈夫っしょ!なんたってここは北海道だから!」
そう言うと俺の彼氏こと、榊 哲太が「まったく、しょーがねぇなぁ。ほら、これ。」と俺に白い小さなボトルを手渡した。
それを見た瞬間の俺の顔を、想像したくもない。
「待ってるから、トイレでそれ塗ってこいよ。」
「ん〜でも、これ塗る時間がもったいないんだけど?」
「…それ言うなら、この後塗らなかったせいで痛い痛いって顔真っ赤にしながら騒いでる時間の方がもったいなくないか?」
「哲ちゃん!またそういう言い方する!わかりました、塗ってくるから待っててよ?」
「ばーか、待ってるに決まってんだろ?」
憎まれ口を叩きながらも、言われたままにトイレに向かい個室のドアを閉める。
「はあ〜俺の彼氏、かっこよすぎ…。」
思わず小声でそう呟き、予想通りに熱が集まった顔を膝の中にしまい込む。
そもそも、哲ちゃんのせいだ。哲ちゃんがあんなにかっこいい顔でこれを渡すから、と最愛の彼氏にあらぬ容疑を被せ、手の中に握られた白いボトルを見た。
それの正体は日本に生きている大人なら一度は目にしたことのある、某有名ブランドの日焼け止めだ。
昔から肌が弱い癖にラグビーをやっていたせいで、年柄年中真っ赤に痛む肌に苦労していたところ、母親と妹が見つけてくれたのがそれなのだ。
以来、愛用品として俺の鞄に常備しているのだが、もちろんそれは俺の話。
哲ちゃんも、なんてのは初耳だ。
しかし、どうしてこれを、しかも旅行先に持って来ていたのか、考えれば考えるほど頬がニヤけてくる。
榊 哲太とはそういう男なのだ。
好きだと素直に言わないくせに、こうやってちょっとした仕草で全てを奪っていく。
無意識のそれが俺をどれだけ振り回しているのか、当の本人は全く、1ミリだって気がついていないのだから、困ったものである。
さっきだって、そうだ。きっと、俺が北海道旅行だからって気を抜いて日焼け止めを持ってこないと予測していたに違いない。
それに、あの憎まれ口っぽい言い方。あれは、哲ちゃんなりの愛情表現だ。
あんなの、狡いだろう?だって、あんな風に言われたら誰だって哲ちゃんに恋するに決まっている。
そうだ、誰だって。
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