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俺と雪の始まりは俺たちが16歳の年、高校一年生の春。
桜が咲き始め、ブレザーの下に潜ませたカーディガンが心地良く感じ始めた季節だった。
俺はと言えば、186センチの馬鹿でかい図体に加えて、中学までやっていた弓道のおかげで育ちすぎた胸筋が目立ちすぎて、いるだけで威圧感を出していた、と思う。
その疑念が確証に変わったのは、意外と早く、入学してから1ヶ月も経たない頃。
騒めく教室の中、俺は見事に「一人」を極めていた。
見た目がなまじスポーツマンに見えるせいで、そっちの人種だと誤解されやすいことが今までもよくあったが元来、俺はそっちの人種とは真逆の陰鬱で消極的ないわゆる、陰キャなのである。
部活に誘われても遊びに誘われても、「いや、俺は遠慮しとくよ。」が口癖の奴と誰が好んで友達になりたがるだろうか。
むしろ、俺は今、一人でいるこの状況がとてつもなく楽だ。
そう本心から感じ、ようやく平穏な高校生活がスタートできたと安堵の息を吐いていた。
そんなある日のことだった、俺の人生を変える出逢いが訪れたのは。
「何、読んでんの?榊くん。」
俺のイチオシだった推理小説がふいに視界から消えた、と思えば代わりに映り込んだのは赤茶色のふわふわした髪とやけに白い肌、瞳の大きな男だった。
「何って…ただの小説だよ。」
「ただの小説って、なんだよ。何の本かって聞いてんのに。」
正直、その時の俺は陽キャに絡まれた、面倒臭いと思う以前に腹が立ったものだ。
なぜ、一度も話したことのないクラスメイトにお気に入りの本を取り上げられ、平穏な時間を奪われなければいけないのか。
しかも、まだ栞を挟んでもいなかったんだぞ?
お前、何様だよ。
まるで、我儘な皇太子に振り回される下僕のようだと、どこかで読んだ小説を思い出したりもしたものだ。
「ジャンルは推理小説。本屋に行けばどこの本屋でも必ず、おすすめのコーナーに陳列している作者のものだ。興味があるなら君も本屋で購入すればいいと思う。」
腹が立ったから、と言って相手を余計に刺激する言葉を言ったり、ましてや取られた本を断りもなく取り返したりなんか、今までどんなに不躾に絡まれてもしたこともなかったはずだった。
それなのについ、したこともするつもりもなかったそれらを同時に成し遂げてしまったのは、やはり腹が立っていたのだと思う。
赤茶色のふわふわ髪の男が、でかい瞳を更にでっかくして俺を見ている。
さしずめ、こんな陰キャになんで陽キャの俺が言い返されないといけないのかと、沸々心の中のマグマを沸騰させているといったとこか。
そこで俺は、序盤の「面倒臭い」に立ち返るのだ。
ふと、教室を見渡せば、陽キャであるだろう男の友人たちが同じく瞳を丸くさせて見ているし、陰キャやどちらでもない奴らまで同じようにこちらを見ている。
極め付けに、教室の中には妙な静けさまで漂っていた。
もう平穏な高校生活は望めないか、と半ば諦めの境地にさえ達し、頭の中では休み時間や放課後の度にいじられる光景を広げてすらいた。
だから、意外過ぎたんだ。
「あの、ごめんな?急に取ったりして嫌だよな、本当にごめん!」
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