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それはまさしく、俺が危惧した「まずい」ことの2点目にあげたあれに間違いない。
気が付けば、お兄さんたちはもちろんのこと、出入り口付近で焼き鳥を美味しく頬張っていたはずのお客さんたちまでもが、俺たちに熱い視線を注いでいた。
愛しくて可愛い恋人の問いかけに俺が、どう返事を返すのか。
楽しみのようで怖い、視線がそう語りかけているようだ。
結果的に俺がどれだけ先回りしたとしても、リスクを察知して回避しようとしても、こうなると頭のどこかでは理解していたんだ。
それでも、俺が毎度毎度懲りずに先回りするのは、やっぱり雪、お前が愛しいからなんだ。
きっと雪には、一生わからない悩みなんだろうが。
一つ、深く深呼吸をして、雪の方を真正面に振り向く。
「もちろん、俺も雪のこと、愛してるよ。」
熱烈な愛の告白に俺がそう返すと、俺以上に顔を真っ赤に染めた雪を抱えるようにして店を出たのは。
その理由は今も昔も、たった一つだけだ。
俺のことを自慢気に語る雪も、見知らぬ人に牽制する雪も、「愛してる」の一言に照れる雪も、俺にとって全てが可愛くて可愛くて、だから心配になる。
この可愛さに俺以外の誰かが、俺みたいに惚れてしまったらどうしよう、と。
「…哲ちゃん。」
「なに?どうした?」
「美鳥」を出て俺のアパートまで歩く最中、雪がぽつりと俺の名前を呼ぶ。
「…手、繋いだらまずいかな?」
「…全然まずくない。俺も繋ぎたかったし。」
控えめに差し出された手を強く、けれども優しく握る。
人前では何故だか強気な癖して、俺の前では弱気になる。
そんな雪がしてくれる合図が、愛情表現がこれから先、永遠に俺だけのものであって欲しいと。
月が輝く夜空をこっそり見上げて、今日もまた一人、願いながら家路を急ぐ。
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