桜の向こうに君がいる

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 私の勤める世界環境保全センターは、都心のど真ん中にある。建物に入るには、四段階ものセキュリティをパスする必要がある。自分のデスクにつくまでに一時間ほどかかるのはザラだ。  国連に属する組織で、何より取り扱う情報の機密性が最上級であるためだ。ここに立ち入るには、例え国のトップクラスの人物であっても、一生涯、機密保護義務を負うことになる。  環境保全のため、生命科学の分野は飛躍的に発展した。  中でも革命的だったのは、魂の存在が証明されたことだ。この世界には、植物、動物、虫や微生物に至るまで、無数の生命が存在している。そして、その全てには魂がひとつ存在する。  つまり、生命は遺伝子の継承だけでなく、魂も引き継がれなければ存在出来ないということだ。  無機質な建物を進んで、〝18〟のナンバーが振られた扉を開ける。私にあてがわれた個室だ。  二十四時間立ち上がったままの端末に、当日にこなすべき業務がまとめられている。  今日の主業務は、日本エリアにおける生命の増減データの解析。一週間で、いくつの生命が生まれ、消えたのか。種単位に自動集計されるデータの整合性を確認する。  大変な作業のように聞こえるが、私がやるのは、AIが拾いきれない僅かなイレギュラーへの対応だ。もっともその必要が生じたのは、太陽フレアの影響で観測衛星に不調が出たときぐらいだ。
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