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「ジョンは食えねえよ、おすわりしてろ」
「でも豚肉と小麦粉ならいけるんじゃないの?」
「こんな山ほど薬味入ってんのダメに決まってんだろ。それでなくても人間の食べ物は塩分多くて犬の内臓には負担が掛かりすぎるんだ、可哀想だけど我慢させないと」
愛犬の健康状態については普段に輪をかけて神経質な桐吾が、ジョンの頭を軽く撫でて、床の上に下ろす。するとあからさまにジョンは不満げな顔をしているから笑った。
「あはは、ジョン拗ねちゃったね」
「割りとすぐ顔に出るよな、犬の気持ちって」
「これぞ親の心子知らずだねえ」
「まったくだよ、俺だって本当はいくらでも食わしてやりたいのに…」
我が子のために心を鬼にしているらしい桐吾が納得いかない様子で白米を搔き込んでいる。それにまた少し笑って、私は目の前の餃子を箸の先で摘まんだ。美味しい。
「あ、そうだ、茉里これいい加減に書いとけよ」
「あー…婚姻届け?面倒臭いなあ」
「こんなもんサクッと書けばいいだろ、明日こそ役所に持ってくからな」
食事のあとでコーヒーを淹れてくれた桐吾から手渡されたのは、婚姻届けだ。これまでも再三早く書けと口酸っぱく言われていたんだけど、面倒だからと後回しにしていたら、いつの間にか四月が終わりかけている。
あと名義変更も嫌なんだよなあ。
なんで結婚したら苗字って変わっちゃうんだろ?
「桐吾が婿養子に来たらいいのに」
「別にどっちでもいいけど、駿河のがいいだろ」
「は?私は須磨に誇り持ってますが?」
「でも須磨と茉里の『マ』が被ってんじゃん?」
「それな?名前のゴロ悪い問題は確かにある…」
「駿河茉里のがゴロは良いだろ」
仕方がないのでローテーブルの上で渋々婚姻届の記入を始める。こういう書類を書くの、本当に世界で一番嫌いなのに。結婚ぐらいサクッとさせて欲しい。
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