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『苦しい。手紙届いているか?君が居てくれたら、どれほど心強かっただろう。『ケレブルム』の判断は正しかったんだ』
ロケットが出発してからもうどれくらいたったのか。彼からの手紙は3ヶ月に一度届くきりになってしまった。
私はシェルターの中にいる。簡素なものではあるが、居住性を無視できる分とても頑強に出来た。
君からの手紙が受け取れなくなる事だけは避けたかったので受信設備は広くとった。最早受信設備の一部に私が組み込まれているような有様である。
私を継続するための設備は半永久的に稼働するものの、修復などは敵わないので故障と共に私は停止する。
何時まで継続可能かは不明。『ケレブルム』からのフィードバックもとうに絶えている。
『まずレーダーが故障した。でもそれは修復出来たんだ』
私と違ってロケットには自己を修復するプログラムがついている。下手に触らなければ何の問題もない。
『磁場の関係なのかな?他の設備も少し壊れた。少し揉めたんだけど、とりあえず子供達は先にコールドスリープに入らせた。僕達も一緒に寝てしまっても良かったのだけど、一応念のためというか、安心のため修復が済むまで起きている事にしたんだ』
私にとってそれは朗報である。コールドスリープに入ってしまえば手紙は当然途絶え、彼が再び目覚める頃に私は稼働していないだろうから。
『その中には、僕が君の代わりにロケットに載せた、あの母親もいた』
彼からの手紙を受信した時点で、私はその内容を閲覧し終えている。
しかしこの先の文章を、私は理解する事が出来ない。
『信じられない。彼女がコールドスリープの覚醒装置を壊した』
その現象に相当する言葉を私は持たない。
仕方なく『独善』という言葉を充てる。
ひとりよがりな母親の行動が、彼を絶望の淵に追いやっている。
手紙の内容は百年にも届くかという以前に起こった出来事。汎ゆる意味で私は結果を知る事しか出来ない。
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