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『産まれた、産まれたよ。驚くだろ?僕が父親になったんだ…』
君からの手紙を、私はうんうんと頷きながら眺めている。
日に一度の再会。君が去ってから、それは今のところ毎日届いている。
私は椅子にもたれかかり、動きの悪くなった木製下肢の関節部に油を挿している。まともなメインテナンスは随分前なので油ひとつ挿したところで動きが良くなる事はないが、現状維持というだけでも意味がある。
なにしろ私に何かあったとて、ケアしてくれる者などいないのだから。
『お陰でこちらはとても賑やかだ。供給が間に合うか心配なくらいさ…』
希望に溢れている彼の表情を見ていると、この薄暗い部屋に何か明りでも点ったようだ。照明が増えた訳でもなし、不思議なものである。
その現象に相当する言葉を私は持たない。
仕方なく『楽しみ』という言葉を充てる。
『やる事は多くて大変だけどさ、退屈なよりは幾分かマシだ。気が紛れるからね』
最近は手紙が届く時間も徐々に遅くなってきた。順調という事なのだろう。
『ああ、君も連れていけたらな。今でもそう思っているんだ』
最後のロケットは発った。1か月も前の事だ。
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