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誰かの温もり
頬を、涙が伝った。
熱を持ったその雫は、すぐに冷たく硬い感触へと変わる。――一体何故僕は泣いているのだろうか。酷く寒くて、歯をかちかちと言わせた。
こつん、と小さく音がした。視線を向けると、涙の形をした透明な水晶が転がっていて。思わず、「またか」とため息を吐いた。
水蒸気が小さな水晶の粒に変わっていくのを眺めて、嫌悪と諦念に脳を支配される。まだ血の滲む傷口からは、小さな小さな澄んだ赤い色の石ができていく。塞がっていく傷口を光を宿せない瞳でじっと見つめて。
生きているだけで宝石を作り出す「貴石星」。
こんな変異種に生まれたことを、恨まなかった日は一日たりともない。
「――何とか、逃げてきたけど…」
早く動かないと、また捕まる。痛いだけの毎日に戻るなんてごめんだった。
寄りかかっていた壁に手をついて立ち上がる。膝も体も、面白いぐらいに震えていた。
ふと、初めての匂いが鼻を擽る。ぽつりと、雫が頬に当たった。
「……雨、」
空から落ちてくる雫を受け止めながらそう呟く。硝子越しじゃない雨をぼーっと見つめて、すぐにふるふると首を振った。
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