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ぽつりと呟く。何だかとても懐かしい感じがした。
(……リークさん、どこだろう)
今や僕とリークさんの部屋は別々だ。だけど、こういう時には何時も傍に居てくれそうな彼が居ないのは、やたらと不安を煽った。
ベッドから下りて、部屋の扉を開ける。廊下にひょこりと顔を出すと、珈琲の香りが漂っていた。隣の…リークさんの部屋からだ。
ノックをしようか迷って、彼の部屋の前で立ち尽くす。扉の奥から、さらさらと紙の上をペンが走る音がした。
(お仕事…なのかな)
彼の仕事が何なのかはわからない。だけど、何となくそんな気がした。
(……そういえば、)
僕は彼のことを何も知らない。どんな仕事をしているのかも、どのくらいの月日を生きてきたのかも、どんなふうに生きてきたのかも。誕生日も、何も知らない。
教えてもらえない訳じゃない。きっと、訊けば答えてくれる。
だけど、僕は訊けない。絶対に。
だって、踏み込めない。もし、それで彼を傷つけてしまったら――。そう考えてしまうから。
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