雫が固まってしまっても

13/18
前へ
/32ページ
次へ
……でも、今はそれが虚しい。 僕は彼のことを何も知らない。知ろうともしなかった。 きゅっと胸の前で拳を握る。苦しい。……この気持ちは、なんて言うんだろう。 そのまま項垂れて。妙に沈んだ気分だ。いつもなら、こんなこと考えないのに。 だから、気づかなかった。 「――翠羽くん。目が覚めたんですね」 扉が開く音と共に響く、朗らかなリークさんの声。 「リーク、さん」 驚いて、顔を上げる。ドアの間から、リークさんが顔を覗かせていた。 「……すみません、運んでくれた…んですよね」 「いえいえ。眠れましたか?」 「はい…」 こくりと頷いて、上目遣いに彼を見上げる。 「お仕事中…でしたか」 「ん、ああ、そうですね。傍に居られなくてすみません」 「締切ぎりぎりまで仕事をためがちで」と彼は苦笑した。……邪魔、しちゃったな。 「……そう、なんですね」 「ええ。終わるまでもう少しかかりそうなんですが…ぼくの部屋、来ますか?」 「…ぇ」 ぱちぱちと目を瞬かせる。リークさんはにこにこと笑いながら僕を見ていた。 「本も沢山ありますし、一人よりは、退屈じゃないと思いますよ」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加