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……でも、今はそれが虚しい。
僕は彼のことを何も知らない。知ろうともしなかった。
きゅっと胸の前で拳を握る。苦しい。……この気持ちは、なんて言うんだろう。
そのまま項垂れて。妙に沈んだ気分だ。いつもなら、こんなこと考えないのに。
だから、気づかなかった。
「――翠羽くん。目が覚めたんですね」
扉が開く音と共に響く、朗らかなリークさんの声。
「リーク、さん」
驚いて、顔を上げる。ドアの間から、リークさんが顔を覗かせていた。
「……すみません、運んでくれた…んですよね」
「いえいえ。眠れましたか?」
「はい…」
こくりと頷いて、上目遣いに彼を見上げる。
「お仕事中…でしたか」
「ん、ああ、そうですね。傍に居られなくてすみません」
「締切ぎりぎりまで仕事をためがちで」と彼は苦笑した。……邪魔、しちゃったな。
「……そう、なんですね」
「ええ。終わるまでもう少しかかりそうなんですが…ぼくの部屋、来ますか?」
「…ぇ」
ぱちぱちと目を瞬かせる。リークさんはにこにこと笑いながら僕を見ていた。
「本も沢山ありますし、一人よりは、退屈じゃないと思いますよ」
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