星のない夜

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 平日のバーは空いていた。  シンは、しきりに左右に目を走らせた。  バーに誘ったのはオレだ。  下手な居酒屋の安酒をあおって具合悪くなるよりは、少ない酒を美味しく飲る方がオレの性に合う。  カウンターのスツールに座ると、シンはメニューを眺めていた。 「一桁多くないか?」  目をむくあいつには、オレは無反応を貫いた。  黙りこんだところでオレは、何を頼むか決まったのかと訊いた。 「……レモンサワーはないのか?」と質問返ししてくる。  オレが眉を浮かせて頷くと、シンは観念したかのように「お薦めは?」と言った。 「オレじゃなくバーテンダーに訊きな」  意地悪したんじゃない。  味の好みを伝えたら、自分に合うカクテルを紹介してくれるからだ。  オレは酒が来るまでのあいだ、次のタバコに火をつけて待っていた。
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