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 牛小屋の入り口で立ち尽くしている、初めて見る生き物に、人狼は目を丸くした。  丈の長いスカートをはき、二本足で立っているところを見ると、老婆と同じ種類の生き物のようだ。  しかし顔に皺はなく、身体からは初めて嗅ぐ、みずみずしい匂いが立ち昇っている。  その生き物を、娘、と呼ぶのだと、人狼は今まで教わったことがなかった。  娘のほうは娘のほうで、偏屈な独り暮らしを続けている祖母の牛小屋に、見知らぬ青年が勝手に忍び込んでいると勘違いし、恐怖に引きつっていた。 「あんた、誰。なにしてるの」  しかも、人狼はほぼ裸に近かった。  思春期を過ぎ、恋の話に日々胸躍らせている身には、なかなかに刺激が強い。  騒ぐ声に気づいたのか、老婆が急いで駆け込んできた。 「こ、この男は流れ者でね。力仕事の手伝いに、ちょっとの間だけ雇ってるんだよ。あんたには言ってなかったかね」  しらじらしい言い訳を並べてみたが、意外や意外、娘はそれをあっさり信じたらしい。  なにより、筋骨隆々の逞しい身体に、ひどく魅力を感じているようだった。  その雰囲気を察したのだろう。  老婆はあわてて付け足した。 「こいつは流れ者だからね。すぐにここからいなくなっちまうんだ。あんたは深入りするんじゃないよ」  だが、実はこれは逆効果だった。  いついなくなるかもわからない、外の世界から来た、魅力的な若い青年。  恋に恋する年齢の若い娘が、惹かれていくのに時間はかからなかった。
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