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 状況が一変したのは、真冬の寒さのひときわ厳しい朝だった。  ベッドから、いつものように老婆が起きて来なかった。  火の消えた暖炉のそばのクッションで、いつもの通り起きた人狼は、朝食のミルクをもらおうと、老婆を起こしにいった。  しかし何度鼻で小突いても、ぴくりとも動かない。  それに、皮膚がひどく冷たかった。  仲間たちを知らず、母も出かけた先の村で殺された。  だから、人狼は死というものを見たことがなかった。  老婆がなにか自分を気に入らなくて、怒っているのかと思い、何度も何度も頬を舐め、甘えた鼻声をあげた。  それでも、なんの反応もなかった。  なにかが、おかしい。  ようやくそれに気づき、人狼はパニックになりかけていた。  その影響で、人間の姿も、狼の姿も、保つことができなくなってしまっていた。
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