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 人狼は、人里からすこし離れた森に、古来から棲んでいる生き物だった。  昔々、人間の数もあまり多くなかったころは、お互いの生息域が重なることは少なく、それぞれが勝手に暮らしていた。  だが、いつしか近くの村々の人口が増え、居住域を増やすために森を切り拓くようになった。  狩場の狭くなった人狼たちは、やがて家畜を襲うようになった。  当然、人間たちも銃を持ち、反撃に出た。  彼らはあっという間に『駆除』され、最後に残ったのが、この母仔(おやこ)だった。  餌になる森の動物たちはあらかた人間たちの食糧のために狩られてしまう。  そのため満足な食べ物にありつけず、ろくに乳が出ない母狼は、人間を怖れて隠れ住んでいた森の奥から出て、餌を求めて村のそばまで近づいてしまった。  当然、彼女は見つかり、殺された。  残された子供は母の匂いを辿ってきたはいいが、途中で力尽きたというわけだ。
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