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仔狼を抱きあげたのは、森のへりとも言えるような場所に一軒だけ建っている、古ぼけた小屋に住む老婆だった。
もともとは家族で住んでいたのが、子どもたちは独立と同時に村で生活するようになり、今ではひとりきり、森から珍しい草花を採ってきて染めた布をたまに市場まで売りに行って生計をたてていた。
小屋の脇には小さな畑と、牛小屋があり、だいたいのことは自給自足できるので、不便はない。
老婆はそこにいる雌牛から乳を搾ってくると、それを綺麗な布に沁み込ませ、仔狼が吸いつけるようにして与えた。
久しぶりに食事にありつけた仔狼は、夢中でそれを飲んだ。
やがて腹がまるまると膨らむと、うとうとし始める。
そのあまりにも警戒心のない様子に、老婆は呆れ半分、好感半分といった感じの笑い声をあげた。
「やれやれ。無邪気なやつだねえ」
老婆はつい最近、長年共に暮らした愛犬を亡くしたばかりだった。
仔狼の姿に、その残像が重なった。
「さて、ちゃんとしつければ、なんとかなるかもしらん。やってみるとするかね」
そう呟いた言葉、人間の言葉を、この小さな人狼はこのときはまだ理解できなかった。
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