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そんな、のどかなある日のことだった。
密会所に急いで駆けてきた人狼の髪に、からかうような目つきの娘が、手を伸ばした。
「どこに顔を突っ込んだの。花が絡みついてるわ」
笑いながら取った赤い花を、指先でくるりと一度回したあと、娘は鼻を近づけた。
「いい香り。この花の色、好き」
人狼には、花の色は分からなかった。色覚が犬と同じで、色の区別がぼんやりとしかつかなかったからだ。
だが、形と匂いは覚えた。
だからその花を見つけては、娘に会うときにはそれを摘んで持っていくようにした。
そうやって、夏が過ぎ、秋が過ぎ……。
老婆が言った、『この流れ者が去るとき』は一向に来なかった。
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