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最初に耳についたのは、火が爆ぜる音だった。
広間?
暖炉で火が爆ぜる音。
寝室ではないので寝台はないが、広間には寝椅子がある。そこで横になって、ウトウトしていたのか。
だが嗅ぎ慣れない匂いに、一瞬で目が覚めた。
見慣れぬ部屋。
部屋とさえ呼べないような、簡単な小屋のようだった。よく見れば、壁の一部は岩肌がむき出しになっていた。
岩屋みたいなものかもしれない。
嗅ぎ慣れない匂いは、隣室から匂ってくるようだった。
よく見ようと体を起こしかけたが、肩と腰に激痛が走った。声もなく断念する。
しばらくじっとして痛みが去ると、身体の様子を調べようと、そろそろと腕を持ち上げてみた。
「?」
腕は綺麗だったが、そこは何も覆われていなかった。
身体の上には一枚の布と、大量の枯れ草が掛けられていた。おかげで寒くはなかったが、嫌な予感がして、恐る恐る布をはぐってみる。
「ひっ」
声にならない悲鳴を上げて、とっさに布をきつく抱いた。その衝動でがさがさと枯れ草が彼女の身体から落ちる。
ごくりと唾を飲み込んで、もう一度布の中を見てみた。
そこには見慣れた自分の裸体があった。
「おっ?目が覚めた?」
奥から若い男が顔を出して、気軽にそう訊ねた。
今度こそ、彼女は盛大な悲鳴を上げた。
「な、なんで」
言葉にならない言葉が、あわあわと喘ぐように漏れた。
必死で布を体に巻き付け、可能な限り男から離れようと、起き上がって後ずさりした。
俊敏とは言い難い彼女の行動を、男は黙ったまま面白そうに観察していた。
「心外だなぁ。俺が悪いみたいじゃん。あのまま濡れた服を着ていたら、あんた、身体冷やして危なかったよ」
「だ、だからって……」
理屈としては分かる。だけど、だからといって「はい、そうですか」と冷静になどなれなかった。
何もされていないとしても、見られた。触られた。
いや、待って。もしかしたら、女の人がいるのかもしれない。
「あの、服を脱がせてくれたのは……」
一縷の望みをこめて、恐る恐る尋ねたその問いに、男はあっさりと答えた。
「ああ、俺だよ。ここ、俺しかいないし。大丈夫、何もしていない」
その言い方は軽かったが、男の様子にやましさは全く感じられなかった。男は彼女の困惑をよそに、つらつらと説明を始めた。
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