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一刻ほどすると、行列はまたぞろぞろと山を下ってきた。
村の集会所には白幕が張られ、祭壇が飾られていた。村人たちの足が集会所へ向くのを見て、黒猫は庭先へと先回りした。
「やっぱり来とったか! ほんに鼻の効く奴じゃ。まぁ今日は祝い事やでのぅ」
酒宴が始まると、猫好きの八助が出てきて酒の肴を黒猫に分けてくれた。
黒猫は軒先に置かれたスルメをパッと咥えてヤツデの影に身を隠すと、ピクピクと耳を動かしながらごちそうに齧りついた。
黒猫の耳は座敷の喧騒を拾う。
「うちとこの子は杉の木じゃ。大きくまっすぐ育てよと杉の木を選んだんじゃ」
「うちは檜じゃ。檜は堅い。男の子にゃあ、檜くらい堅実に逞しゅう育ってもらわにゃいけん」
「うちは松にした。一年中、葉を落とさん上に腰が曲がっても元気でおる。縁起のいい木じゃでなぁ」
皆それぞれに我が子の幸せを願って、守護となる木を選んだらしい。
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