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「うっとこは『桜』じゃ」
聞き覚えのある声に、黒猫はピクリとヒゲを震わせた。声の主は吉野というまだ若いおなごであった。
黒猫は顔を上げぺろりと口の周りを舐めた。
「『うちじゃあ昔っから、女の子が縁をつなぐのは桜と決まっとる』って婆様も言いよるけぇ……」
「そりゃあええ。この子も大きゅう育ちゃあ吉野に似て、べっぴんになろうで」
上機嫌な村人たちの宴会は、夜遅くまで続いた。
黒猫は首を傾げるようにして物陰からじっと吉野とその赤子を見ていた。
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