花鳥風月

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 吉野の家に男手はない。吉野と母親の『河津(かず)』、そして生まれたばかりの赤子『千鳥(ちどり)』。  女ばかりの三世代を見守るように、家の裏には四丈※はあろうかという枝垂れ桜が一本立っていた。  花が咲けば桜の蜜にヒヨドリやらメジロやらが集まってくる。黒猫はよくこの家に来て垂れた桜の枝に身を隠し狩りをしていた。  千鳥が生まれると吉野と加津は桜の木陰にかごを置き、千鳥を寝かせて野良仕事に勤しんだ。  吉野と河津が畑に出ると狙ったように黒猫が現れ、籠に入った千鳥をあやしていく。  初めは気味悪がって追い払っていた二人も次第に黒猫をあてにするようになり、いつしか家族のように黒猫を受け入れていった。  こうして若い黒猫は千鳥とともに育った。 首が座り、這い出し、足で立ち、走り出す千鳥を一番近くで見守っていた。 ※4丈=約12m
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