花鳥風月

5/20
前へ
/20ページ
次へ
「クロ! クロ!」 千鳥が呼べば、黒猫はどこからともなく現れた。 「クロ、聞いて! 今日はオラの仕掛けにキジバトがかかっておったんよ。今夜はごちそうじゃ!」  千鳥は黒猫を抱き上げ、溢れんばかりの笑顔でつややかな毛並みに頬を擦り寄せた。  またあるとき、千鳥は口を尖らせ枝垂れ桜の幹に寄りかかった。 「クロ、聞いて! 与七爺(よしちじい)が『オナゴはあぶねぇから熊狩にゃ連れて行かれん!』って言いよるんよ!」  千鳥は大きな目に悔し涙を浮かべている。 「太助に『ヌシが行くのに、なしてオラだけ除け者にされる?』と聞いたらば『オナゴは力がないからじゃ』とぬかしよる。『ヌシより、オラのほうが木登りもうまいし足も早い』と言うてやったら、太助のやつなんと応えたと思う?』  千鳥の黒猫を抱く手に思わず力が籠もる。 「『千鳥の護り木(もりき)は支えが()うては立ってもおられん枝垂れ桜(しだれざくら)じゃろうが。枝もしょぼくれて垂れ下がっとる』じゃと!   桜様を()しく言われて、オラもう悔しゅうて悔しゅうて……」  ポロポロと悔し涙をこぼす千鳥の姿はまさに、降りそぼる春の雨に濡れる桜のようだった。  千鳥は喜びも楽しみも悲しみも怒りも全て桜に報告した。黒猫は黙って千鳥に寄り添った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加