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「クロ! クロ!」
千鳥が呼べば、黒猫はどこからともなく現れた。
「クロ、聞いて! 今日はオラの仕掛けにキジバトがかかっておったんよ。今夜はごちそうじゃ!」
千鳥は黒猫を抱き上げ、溢れんばかりの笑顔でつややかな毛並みに頬を擦り寄せた。
またあるとき、千鳥は口を尖らせ枝垂れ桜の幹に寄りかかった。
「クロ、聞いて! 与七爺が『オナゴはあぶねぇから熊狩にゃ連れて行かれん!』って言いよるんよ!」
千鳥は大きな目に悔し涙を浮かべている。
「太助に『ヌシが行くのに、なしてオラだけ除け者にされる?』と聞いたらば『オナゴは力がないからじゃ』とぬかしよる。『ヌシより、オラのほうが木登りもうまいし足も早い』と言うてやったら、太助のやつなんと応えたと思う?』
千鳥の黒猫を抱く手に思わず力が籠もる。
「『千鳥の護り木は支えが無うては立ってもおられん枝垂れ桜じゃろうが。枝もしょぼくれて垂れ下がっとる』じゃと!
桜様を悪しく言われて、オラもう悔しゅうて悔しゅうて……」
ポロポロと悔し涙をこぼす千鳥の姿はまさに、降りそぼる春の雨に濡れる桜のようだった。
千鳥は喜びも楽しみも悲しみも怒りも全て桜に報告した。黒猫は黙って千鳥に寄り添った。
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