花鳥風月

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 春の霞に()ゆる山辺(やまのべ)を、黒猫はじっと見つめていた。  村人が列を成して山への石段を登っていく。 「今年生まれた子供にをつなぐための行列だよ」  水車小屋のオババはそう言いながら、黒猫に小魚を投げてくれた。 「人の子は弱いでな。生まれた子らを山の神さんに面通(めんどお)しして、山の木々にを繋いでもらうんよ。一人の子につき一本の木とを繋いでな、大きくなれるよう護ってもらうんよ」  小さな黒猫にオババの話など分かるとも思えなかったが、黒猫はまるで返事をするかのように一声「ニャア」と鳴いた。  村人たちはしずしずと山の中腹に建つ赤い鳥居をくぐっていった。
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