36.いつもこんな感じですのよ

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36.いつもこんな感じですのよ

 アレクシス様が有名になられたのは、各国を脅かしていたドラゴンを退治したからです。隣国との境にある山脈に現れたドラゴンは、周辺国にも被害を与えました。赤い鱗を持ち、口から火を吐く巨体は剣の刃を通さないと言われたほど。  圧倒的強者であるドラゴンは、捕らえに来た隣国の軍を焼き払いました。数百人が一瞬で命を奪われ、散り散りに逃げる兵士も踏み潰されたのです。その狼藉ぶりを聞いて私は腹を立て、妖精王に願いました。ドラゴン退治がしたい……と。後になれば愚かな行動でしたね。  あの時は正しいと信じていました。人の力で勝てぬ竜なら、妖精王の力を使える私が倒すべきだ。本心でそう思っていました。やめるよう諭す妖精王に「だったら昼間勝手に出かけるから」と脅し、泣き落としをかけ、二日で落としたのです。  結果は惨敗。少年の姿になって颯爽と現れ、魔法で倒す気でいました。もしアレクシス様が庇ってくださらなければ、妖精王でも治せない傷が残ったでしょう。名もない少年ロヴを助けてケガを負ったのに、一言も責めなかった。だから看病して、この人の優しさと痛みを知るのです。  公爵家の娘に生まれた私は、蝶よ花よと愛されて育ちました。男爵家の三男がどんな環境で育つのか、想像も出来ませんでしたわ。長男は嫡子として教育や習い事にお金をかけるけれど、次男三男は独立するのが当たり前です。運が良ければ、ご令嬢しかいない貴族家に婿に入れるそうです。  よほど優秀でない限り、次男と三男がいたら次男が選ばれると聞きました。順番通りということでしょうか。アレクシス様は三男、当然自力で身を立てる必要がありました。  だから無茶をしたのだろう、そう語る男性は傷ましそうな目をしました。この時点で、命が危ないと判断していたのでしょう。私は昼間の看病は汗を拭うなどに留め、夜になると妖精王の力を注ぎました。  幸い、彼は生き残りました。それだけの経験をしてきた方です。私を守るのに過不足があるはずはなく、どなたと比べても強さで劣ることはない。この点に関しては、妖精王のお墨付きですのよ。 「このような無礼な手紙を……本当にこの肩書きの方々が……」  驚き過ぎて言葉を失うアレクシス様には申し訳ないのですが、これが現実です。表面上は紳士的に振る舞うのですが、二人になったと見るや不埒な言動に出る方ばかり。国の中枢を担う高位貴族で尊敬出来るのは、ほんの一握りでした。 「いつもこんな感じですのよ」  朝食後の果物も頂き、私は二杯目のお茶を楽しみながら口を挟みました。 「っ! 内容を知っているのか?」 「ええ、最初の頃は求婚のお手紙だと思い、私が開けておりましたもの」  高位貴族や王族からの封蝋付きのお手紙ですから、宛名通り私が開封していたのです。理性的とは思えない内容に、一般のご令嬢は卒倒するでしょう。ですが私は怒りで派手に破きました。その後、執事や侍従が繋ぎ合わせ、相手を特定したそうです。ご迷惑をかけましたわ。 「まあ、あまりの内容にヴィーがその……卒倒はしないんだが、あの……色々あってな。我らが開封するのが通例になったのだ」  お父様が濁してくれましたが、アレクシス様は察したご様子で「なるほど」と私を見ました。にっこり笑っておきましたが、誤魔化す効果は薄そうですね。
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