43.お転婆だが、そこがいい

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43.お転婆だが、そこがいい

 国王陛下との謁見のため、馬車に揺られます。普段は馬に跨るアレクシス様も同じ馬車に乗ってくださいました。ずっと手を握って私の様子を見ているので首を傾げると、彼は「大丈夫そうだな」と頬を緩めました。大きな傷のあるお顔は、優しい色を浮かべています。 「もしかして、心配してくださったのですか?」  馬車に乗っているときに襲撃され、誘拐された。だから馬車に乗ることを怖がると思ったのでしょう。本当にお優しい方ですわ。なぜ、他のご令嬢は内面を見ないのでしょうね。いえ、だから私の求婚が間に合って良かったのですけれど……。  若すぎる初恋は、打ち明けるタイミングが難しくて。私は何度もお父様やお兄様に、婚約打診を頼みました。でも却下されてしまった。今になれば理由がわかります。あの頃もし婚約していたら、私を欲しがる各国の王侯貴族がアレクシス様を攻撃したでしょう。  表立っての武力衝突ではなく、裏から工作して物資を止めたり、暗殺者を送ったり。卑怯な手でアレクシス様を排除しようとしたはず。あの頃の私にはそれが見えませんでした。  今なら妖精王様の力を存分に引き出せますし、国王陛下や王妃殿下を完全に味方に付けました。実家のエールヴァール公爵家の権力や財力も利用できます。同時に、アレクシス様自身の基盤も固まりました。待った時間の分だけ、お互いを助け守る力を手に入れたのです。  レードルンド辺境伯家は元々、アレクシス様のご実家ではありません。いくら直系が途絶えても、由緒ある家柄です。他家から養子をとることに、分家の皆様は反対したでしょう。あわよくば自分達が跡取りに……そんな思惑も交錯したはず。嫌がらせも多々あったと思います。  すべてを跳ねのけねじ伏せ、今のアレクシス様がいるのですね。前後に向かい合って座ることの多い馬車のシートですが、心配したアレクシス様は隣に座っています。その膝に手をつき、ぐいと身を乗り出しました。  逞しい胸に体を預け、腕が肩に回るのを待ちます。ふらりと傾いた私を支えようと伸びた腕が、腰と肩をしっかり掴みました。シベリウス侯爵夫人が武器になると教えてくれた胸を、ぐいと押し付けながら見上げます。殿方は上目遣いに弱いのでしたね。 「アレクシス様、少し怖いので口付けを……」 「怖い女性はそんなことを言わないぞ。はぁ、兄上殿の仰る通りだな。お転婆だ……だが、そこがいい」  お兄様が余計なことを吹き込んでいたようです。でもそこがいい? きょとんとした私の目蓋に唇が触れ、大急ぎで閉じました。すると頬や鼻の頭に優しい感覚が触れて。最後に唇がしっとりと重なりました。舌で唇をなぞられて、薄く開きます。  深く入ってくることはなく、口付けはすぐに終わりました。息をどうしようか迷いましたけれど、我慢出来て良かったわ。乱れた息を整えながら、力を抜いた体をアレクシス様に預けました。 「到着いたしました」  コンコンとノックの音がして、到着を告げる御者。すぐに開かず返答を待つのは、私達の準備が整うのを待つ礼儀作法のひとつです。 「今行く」  アレクシス様は私の頭を優しく撫で、外へ開かれた扉へ顔を向けました。 「行こうか、ヴィー」 「はい、アレクシス様」
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