49.義兄殿の懸念が理解できた――辺境伯

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49.義兄殿の懸念が理解できた――辺境伯

 婚約者になったロヴィーサは、何を教わってきたんだろう。心配になるほど考えが偏っている。ついには軍事作戦の提案までしてきた。全体に悪くないが、危険すぎる作戦だ。もしかしたら妖精王様のご教示だろうか。ならば、人の考えと外れていてもおかしくないが。  義兄になるレオナルド様が心配していた理由が、ずっしりと重さを増す。これは他国の王族へ嫁に出せないはずだ。我が国の内情も話してしまいそうだし、何よりとんでもない奇襲作戦で攻め帰ってきそうな気がした。里帰りが嫁ぎ先からの襲撃になる予感しかない。  妖精王様のお力が使えることも拍車をかけて、不安を煽った。今回のとんでもない作戦も、過去の外交努力や国王陛下のお気遣いを吹っ飛ばすものだ。本人は自覚なく、邪魔な穴なら塞げばいいじゃない。と無邪気に提案した。  悪気のないところが、一番タチが悪い。簡単そうに「崖を崩せば、敵兵力を下敷きにして減らせる」と言い放ったが、実行したら周辺国から責め立てられるのはこちらだった。まあ、ロヴィーサの案だと説明したら、半分以上は黙りそうだが。  ただ、川の流れを変える案は魅了的だ。他国に我らがやったとバレなければ、最高だな。例えば災害のフリをして、妖精王様のお力で崖を崩す。そのため堰き止められた川が我が領地へ流れたなら、自然災害を装うことも可能だった。  実行する気はないが、参考にして今後の対策を練るとしよう。髪型を崩さないようにしながらも、ヴィーが満足するまでたっぷり撫でた。子どものように頬を緩めて笑う姿は、本当に美しいし無邪気だ。  こんなに綺麗ならどこでも嫁に行けると思っていた。だが、ヴィーの嫁ぎ先は国内しかないと言い切った陛下のお気持ちがようやく理解できる。危険すぎて国外へ出せないのだろう。  着替えに自室へ戻るヴィーに手を振り、ようやく顔を見せた部下達の姿に力が抜ける。首を傾げる彼らに地図を開き、状況をかいつまんで説明した。 「いい案があれば出してくれ」  傭兵上がりも多いので、部下達の口は悪い。当然敬語なんて使う者はいなかった。 「自然災害を装って川を堰き止め、一気に開放するのはどうだ?」 「それだと上流が水浸しになるぞ」 「敵が崖の間を通る時に、石を落としたらいいじゃねえか」 「ここは子爵家の土地で、おれらの管理下じゃない。絶対に難癖付けられて、面倒なことになる」 「要塞を作るか?」 「壁を延長すりゃいいさ」  様々な案が出尽くしたところで、俺が口を開いた。 「こことここを崩して閉鎖、その上で、川をあえて残す。連中が来たら、丸太を流したらどうだ? 文句をつけられても、すべて自然災害で片付けられる。さらにここへ公共工事で溜め池を作らせ、我が領地へ水を引こう」  河原部分をある程度潰す。歩いて渡れる場所を限定すれば、敵の侵入も監視しやすい。その上で丸太を武器に対抗すれば、こちらの労力はさほど必要なかった。  抗議されても外交問題にならぬよう、崩す際も丸太も工夫する。川の流れを変えたら噛み付かれるが、手前に溜め池を作るのは可能だ。理由は災害防止とでもすればいい。そこから公共工事で新たな川を掘る策だった。  民の働く場所も出来るし、下流へ流れる水量が減ったとしても、崖が崩れた後なら理由はなんとでもなる。にやりと笑った俺は付け加えた。 「ちなみに、これはヴィーの案を手直ししたものだ」 「っ! あの奥様がこんなえげつない作戦を?」  驚く彼らには悪いが、彼女が最初に提示した作戦はもっとえげつない。夢を壊さぬよう、俺の胸に永久封印が決まった。
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