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05.きっちり引導を渡して差し上げます
半年は早すぎる。そう抵抗したアレクシス様ですが、仰る内容は正しいのです。一般論として王族の結婚は一年、公爵令嬢となれば準じて十ヶ月は必要でした。
でも短くする方法がありますのよ? 長い婚約期間が必要な理由は、結婚式の準備です。花嫁のドレスだけで、割増料金を支払っても三ヶ月以上です。つまり婚約の前に準備が先行していたら、この不文律は最短で突き切ることが可能でした。
すでに私は準備万端です。少なくとも、ドレスや装飾品は準備を終えていました。
「国王陛下、王妃殿下、お父様、お母様……私、これからアレクシス様と同居いたします」
「……っ、お前の決めた事だ。言っても覆らないのであろうな。好きにしなさい」
お父様の許可が出れば、陛下も反対出来ませんね。この場でお持ち帰りいただく事になりました。準備があると渋るアレクシス様に事情をご説明しますわ。
「私は常に狙われております。お願いですわ、アレクシス様。婚約者として私をお守りください」
半分は本当で半分は嘘。うるうると目を潤ませて懇願する。もちろん両手は彼の傷だらけの手を握りしめた。触れることを厭う令嬢も多い中、指を絡める私にアレクシス様はタジタジだった。押されすぎですわ。救国の英雄ですのに。
そのまま押し切られ、アレクシス様は屋敷への滞在を許可してくださいました。馬車を横付け出来るロータリーへ顔を出せば、複数の男性に囲まれます。顔も肩書きも財力も……何一つ不自由のない方々ばかり。
「本当に辺境伯を選ぶのか!」
「強さが必要なら、俺も鍛えるから!!」
「権力と財力なら負けません。どうか考え直してください」
縋る面子は豪勢でした。この国の公爵家嫡男、隣国の第二王子殿下、二つ向こうの国の若き大公閣下です。これで最後ですもの、きっちり引導を渡して差し上げましょう。
「私、すでにアレクシス様と婚約しておりますわ」
誇るように胸を張り、左手を見せる。先程スカートの隠しポケットから取り出し、指を絡めて歩いている間にアレクシス様に装着しました。私と同じデザインですわ。
「……同じデザイン?」
めざとく気づいたのは、隣国の第二王子でした。呆然とする彼らを無視し、私はアレクシス様を促します。早く馬車でこの場を離れようとしたのに、我に返った二つ向こうの大公閣下に呼び止められました。
「婚約ならば、組み直しが可能なはず」
「そ、そうだ」
愚かですわね。最後まで「妖精姫」の夢を見せてあげようと思いましたのに……自分勝手な権力者には天誅あるのみです。お覚悟を!
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