せんし いいいい はふかふかのふとんでねむりたい

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せんし いいいい はふかふかのふとんでねむりたい

「これがきっと…最後の戦いになる。みんな、必ず生きて帰ろう」  勇者 ああああ の真剣な表情と言葉に、俺たちは力強く頷いた。  それぞれの脳裏には、これまでの過酷な冒険の日々や、故郷の家族や大切な人の顔などが浮かんでいるだろう。  俺、戦士 いいいい も、旅の終わりを夢見て、必ず魔王を倒すことを改めて胸に誓う。  俺は、ある日自室でテレビゲームをプレイしてる最中に、突然意識を失ってこの世界に転生してきた。  うすぼんやりと前世の記憶を持つ俺は、親から貰った『いいいい』という名前に、ちょっと嫌な既視感を感じながら成長し、そして村の中ではそれなりに腕が立つからという理由で、勇者の旅立ちに同行することになった。  魔王の放つモンスターが人類を脅かし、放っておけば自分や家族も危ないとなれば、そしてチートほどではないにしても自分に勇者を助ける力があるというのなら、討伐の旅に出ることに異論はなかった。  問題は、……そう問題は。  故郷の村を出てから、一度も休んでいないことだ。  勇者 ああああ は、回復に宿屋を使わなかった。  初期の頃は、敵と戦いぼろぼろになれば、体力回復効果のある『回復の泉』という泉の水を飲んで回復。  ああああ 曰く、「疲労回復効果もあるから、これがあれば二十四時間戦えるな!」  爽やかなサムズアップと、名案と信じ切った澄んだ瞳の圧力に何も言えず、しばし回復の泉の徒歩圏内で、周辺のモンスターが一掃されるほど鍛錬を重ねた。  僧侶 うううう が仲間になってからは回復魔法で、魔法使い ええええ が仲間になってからは転移魔法が使えるようになったため回復の泉まで容易に戻ることができるようになり、ますます宿屋から遠ざかった。  俺、思うんだけど、疲れって、肉体的なものだけじゃなくない?  一人になってぐったりする時間とか必要じゃない!?  旅立ってから、もう数ヵ月は寝ていない。  ちなみに、回復アイテムを使ったこともなかった。  どこの村の道具屋でも一通りのものは売っているのに、アイテム収納の袋に入っているのは、いつから入っていたのかわからない洞窟内にある宝箱の中から出てきた薬草だのポーションだのや、これまたモンスターが持っていた出どころ不明の毒消しや魔力回復剤しかない。  言えば、仲間たちは使っていいというだろう。  けれど正直、もう少し出どころのしっかりしたもので回復したい。  他の仲間たちは「必要としないくらい鍛錬を重ねれば良いだけのこと」という精神のようだ。  ただ、俺はこの旅について、仲間に文句を言ったことはなかった。  何故なら、これは全て前世の俺のゲームプレイスタイルそのままだったから……!  無料で全回復できる地点で回復アイテムが不要になるくらい執拗にレベル上げをして、俺TUEEEEを楽しみつついつも宿屋は素通り。  パーティ全員全回復などの高位アイテムなどは、結局使わずにラスボスを倒してしまう。  『ああああ』というおざなりな名前も、デフォルトネームのないゲームでは何度も使った覚えがあった。  それは、でも、ゲームだと思っていたからで、実際に自分がそんな転生ライフを送りたいと思っていたわけでは断じてない。  俺たちは、意思のある人間なのだから、プレイヤーの貧乏プレイに付き合う必要はないと思う。  しかも、これはラストバトル。  一切出し惜しむ必要なんてないはず。  そう結論付けて、俺はさりげなく仲間に促した。 「ああああ、これまで貯めに貯めたアイテムも駆使すれば、今の俺たちの実力なら、さくっと倒せそうだな」  回復アイテムはともかく、攻撃用の魔法アイテムなどもしこたま残っている。  ああああ は、大きく頷いた。 「そうだな いいいい。けど、使わずに倒せればそれに越したことはない。俺は、お前の…俺たちパーティーの力を信じてるから…!」  違うそうじゃない。  駄目だ。  若干洗脳されているようにも見える底の知れない ああああ の爽やかな笑顔に、見えざるプレイヤーの大いなる意思を感じる。  奴(プレイヤー)め、アイテムを二周目に持ち越す気か。  目が覚めたらまた戦士 いいいい の旅が始まるところだったら、精神的な寝不足で心を病んで俺が魔王になりそうだ。  神様仏様プレイヤー様、もう二度とケチなプレイはいたしません。  次に前いた世界に転生したら、RPGでは必ず宿屋に泊まり、自分の分身たるキャラたちを労わります。  だからどうか二周目とか言わず、これを最後の冒険にさせてください!  お願いだから、俺をベッドで眠らせてー!  終
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