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出会い
嫌というほど耳に響く蝉たちの大合唱と、容赦なく全身に照りつける太陽の光で、夏の真っ只中であるということを思い知らされる。
夏休みもあと半分で終わってしまう。そんなことを考えながら、部活終わりの僕は友達と一緒に帰路に着くーーのではなく、近くの図書館へ向かう。
夏が始まってすぐに、家のエアコンが壊れたせいで暑すぎて家で過ごせないので、午後はクーラーの効いた図書館で勉強をするのが日課になった。エアコンを修理してもらうか、新しいのを買うかで両親がずっと揉めていて、半月以上も部屋が蒸し暑いままだ。
まあ、そのおかげで図書館に通う習慣がつき、宿題も無事に終わりそうだから良しとしようか。
それに最近、密かな楽しみができた。図書館に行くと、いつも一番端の席に座っている、一人の女の子を眺めることだ。勉強をしているわけではなく、いつも本を読んでいる子。綺麗な顔立ちをしていて、でもそれだけじゃない不思議な魅力があるような気がする。僕と同じくらいの年齢に見えるが、学校で見たことはない。他の学校の子だろうか。それともまだ中学生なのか。とにかく僕はその子のことが気になってしょうがなかったーー
次の日、いつものように部活の午前練が終わり、図書館に行こうとすると
「最近お前家じゃない方向に帰ってるよな?どこ行ってるんだ?」
と、後ろから声をかけられた。声の主は亮。中学生のときからの付き合いで、部活も同じ。僕にとって唯一の親友とも呼べる。亮になら話してもいいかもしれない。
「実はさ……」
僕は、図書館に通うようになった経緯から、図書館にいる女の子のことまでざっと亮に説明した。
「なるほどな。お前その子のこと気になってるから毎日のように図書館に行ってるんだろ?そんなに気になるなら話しかけてみろよ」
いや、家のエアコンが壊れてるのが図書館に通ってる一番の理由なんだが。それは突っ込まないでおこう。
「最初から話しかけられれば苦労してないって。知らない男子にいきなり声かけられても怖がられるだけだよ。そもそも年上か年下かもわかんないのにどんな風に声かければいいのさ」
「お前結構めんどくさいやつだな」
亮が大雑把すぎる性格なんだよ。
「とりあえず、俺も図書館ついて行っていいか?その子毎日いるんだろ?俺も見たい」
「まあ、いいけど…」
そういうことで、今日は亮も一緒に図書館に。
「ほら、一番端に座って本読んでるあの子だよ」
よかった、今日もいた。
「へぇ、結構美人だな。雅紀ってああいうのがタイプなのか」
「タイプというか… あの子、僕が図書館に来る前からいて、帰るときもいるんだよね。僕は12時くらいから6時くらいまでここで勉強してるから、あの子はそれ以上いるってことなんだよ。長くない?しかもあの子、勉強してるんじゃなくてずっと本読んでてさ」
「あの子もお前みたいに家のエアコン壊れてるんじゃね?ずっと本読んでるのは読書が好きだからだろ。てか、そんなに気になるなら話しかけてこいって」
「だからそれが出来れば苦労してないんだって」
「何読んでるの?とか聞けばいいんだよ。ほら、行ってこいよ」
「うわっ!」
亮に背中を押されてでかい声を出してしまった。あの子がこちらを向く。真っ黒でキレイな瞳だ。もうこれは話しかけるしかないのか……
「あはは、ごめんね。読書の邪魔しちゃった…?」
「…………いえ、大丈夫です」
淡々とした声でそう言われた。これ絶対大丈夫じゃないやつだよね?助けを求めるように亮に視線を送っても、イケイケ!と言わんばかりにガッツポーズをするだけ。ああ、もうどうなってもいいや!嫌われたらそれはそれでしょうがない!
「そっか、本当にごめんね。えっと、何読んでるの?」
「……これです」
本を一回閉じてタイトルを見せてくれた。『日本の都市伝説大辞典!!』小説読んでるものだと思っていたから少しびっくりした。
「へぇ、面白そうだね。あ、えっと、これも何かの縁だからさ、名前教えてくれない?僕の名前は染宮雅紀」
「…………千鶴、です」
さっきと変わらず淡々とした口調。変なやつって思われたな…… でも、ここまで来たらもう何言っても同じだよね。聞きたいこと全部聞いてしまおう。
「いい名前だね。千鶴さんって高校生?どこの学校行ってるの?僕は高校2年生で、東高に通ってるんだけど」
「……私も高校2年生です。…………違う町の学校に通ってて……。」
少し考えるようにして千鶴さんは言う。個人情報とかあんまり言いたくないのかな。それはそうか。初対面の男子にいきなり話しかけられてペラペラと自分のこと喋るほうが危機感なくておかしいよな。
「そうなんだね。なんかいきなり話しかけちゃってごめんね。今日は僕もう帰るから。また会ったら話そう!じゃあね!」
「…………はい、さようなら」
もう気まずくて図書館にいられない。今日ここで勉強するのはやめよう。そそくさと亮のもとに帰ると
「お前って結構グイグイいけるタイプじゃん。話せてよかったねぇ」
「亮が背中押すだけ押して、助けてくれないからだよ。もう今日は図書館にいられないって。でも家に帰るのも嫌だから、責任とって亮の家で勉強させてよ!」
「はいはい、クーラーガンガンにさせていただきますよ」
そんなこんなで、幸か不幸か、気になっていた子と話すことができたのだった。
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