最後の時

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お別れの時間は、あっという間だった。 突然の事で何が何だか分からなくなって、はっきりと覚えているのは、雅紀くんの最後の 『愛してる』 という言葉と、雅紀くんが眠ってしまった後、彼の隣でひたすらに泣き続けたことだけ。 最後にもっと伝えたいことがたくさんあった。 告白してくれて、こんな私を受け入れてくれてありがとうって言いたかった。 一緒に住もうと言ってくれた時、嬉しかったって言いたかった。 雅紀くんが病気だって知った時、すごく悲しかったけど、雅紀くんなりに私との時間を大切にしようと考えてくれてたこと、すごく嬉しかったって言いたかった。 自分が死んでしまった後の私のことをちゃんと考えてくれたこと、指輪をはめてくれたこと、本当に嬉しかったって言いたかった。 雅紀くんと過ごす日々が楽しかったって言いたかった。 雅紀くんと出会えて幸せだったって言いたかった。 雅紀くんのこと、ずっと永遠に愛してるって言いたかった。 もっともっと、言いたいことがいっぱいあった。私の気持ち全部伝えたかった。 けれど、時間が許してくれなかった。そして私の心が時間に追いつかなかった。 雅紀くんが『愛してる』って言ってくれた時も、泣きながら頷いて「私も」と言うので精一杯だった。頭の中には言いたい言葉がたくさん浮かんでくるのに、実際に口から出るのは嗚咽だけ。 もう二度と、私に向かって微笑んではくれない。 もう二度と、あの大好きな声を聞くことは出来ない。 でも、いつまでも泣いていたら、きっと雅紀くんが悲しむ。私は雅紀くんの笑顔が大好きだから、空でも笑っていて欲しい。だから、私がメソメソしてたら駄目。 雅紀くんのお葬式や、家のローンをどうするかなどでバタバタしていて、心の整理が追いついていなかったけれど、ようやく今落ち着くことが出来た。 そういえば、雅紀くんからもらった日記、まだ読んでなかったな。ふとそのことを思い出し、あの日からずっとバッグの中に入れたままの日記を取り出す。 雅紀くん、日記とかつけてたんだ。全然知らなかった。……きっと、他にも私の知らない雅紀くんがたくさんいたんだろうな。もっと知りたかった。 日記には、私のことがたくさん書かれていた。というか、ほぼ私のことしか書かれていなかった。 一緒にデートに行ったことはもちろん、自分でも覚えていないような私の言動まで。 ここ一年くらいで始めたものっぽいけど、日記には、私たちが出会った時のことも書かれていた。 すごい。私たちの思い出がたくさん詰まってる。読んでいると、そのときのことが頭に鮮明に蘇ってくる。でもその度に、もうあの頃とは違う、雅紀くんはもういないのだと痛感する。 やっぱり寂しいよ。 ……少しくらい、泣いてもいいよね。雅紀くんだって、自分を思い出して泣いて欲しいって言ってたものね。 「愛してるよ、雅紀くん」 日記を抱きしめて、私はそう呟いた。
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