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君と話す時間
あぁ、夏って何故こんなに暑いのだろうか。そして、何故エアコンは壊れたのだろうか。暑くて暑くて頭がおかしくなりそうだ。両親はまだ、修理してもらうのか新しく買うのかで揉めている。父も母も暑さにやられて上手く判断ができていないんだろうか。何でもいいから早く正常に動くエアコンが欲しい。この夏を扇風機だけで過ごすのはいくら何でも無理がある。
今日は一日中部活がない。午後は友達と遊ぶ約束をしているから、午前中は図書館で過ごそうと思う。だが、図書館が開く9時までは家で過ごさなければいけない。コンビニとかに行くのも手だが何時間もいるわけにはいかないし。扇風機の前を陣取って時間が過ぎるのを待つしかないーー
開館と共に図書館に着いて、サッと中に入る。自動ドアが開くと、ヒンヤリとした空気が身体を包み込む。エアコンのありがたさを、文字通り身に染みて感じる瞬間だ。さすがに千鶴さんもこんな早くからはいないか。今日は来てくれるだろうか。昨日のこともあったしな… もし来てくれたら、昨日のことをちゃんと謝って、改めてちゃんと話したい。勉強しながら待つとしよう。
一時間ほど経っただろうか。女の人が後ろを通り過ぎたような気がした。見てみると、その正体は千鶴さんだった。やった、今日も来てくれた!
千鶴さんはいつものように一番端の席に座って本を読み始める。話したいと思ってはいたが、いざ話しかけようとすると身体が動かないのだから困ったものだ。でもここで何もしなかったら、また前みたいに僕が一方的に眺めるだけになってしまう。せっかく昨日話しかけることが出来たのだから、いい関係を作りたいじゃないか。
僕は意を決して荷物を持ち、千鶴さんの隣に移動する。
「…あの、千鶴さんだよね?昨日話しかけたんだけど、僕のこと覚えてる…?」
千鶴さんがこちらを見る。昨日も思ったけど、真っ黒でキレイな瞳だな。
「……雅紀、さん、でしたかね…?」
ウソ、名前まで覚えていてくれていたなんて!嬉しさで飛び上がりたくなる気持ちを抑えて、あくまで冷静に話す。
「そう!覚えていてくれてありがとう。…その、昨日はいきなり話しかけちゃってごめんね。友達に突き飛ばされちゃって」
ごめん、亮。でも、あながち嘘でもない。
「…いえ、全然気にしていないので大丈夫です」
よかった、少なくとも怒っているわけではないようだ。
「そっか、よかった。……あのさ、よかったら僕、君と仲良くなりたいんだけど……ごめん、変なこと言って。でも、これは前から思ってたことで…」
回りくどい方が呆れられそうな気がするので、ストレートに言うことにした。
「…………あの、嬉しいんですけど、私、何も面白い話とか出来ないし… 流行りに疎いから… 私といてもつまらないと思うんです…」
これは、仲良くしてもいい、ということだろうか。
「僕もそんな、人と喋るの得意な方じゃないし。でも君とは話してみたいなって思ってて。どうかな…… もちろん、嫌だったら全然いいんだけど」
「……あの、そこまで言ってもらえるのは初めてというか…… 私でよかったら、仲良く、しましょう…?」
え、やった!これからは普通に話しかけていいってことだよね!?自分でもだいぶ下心丸出しな感じだなと思ったが、向こうはあんまり気にしてないみたいだ。
「あの、でも、私…… 何話せばいいかとか、わかんないですし」
「そうだな… 今日は何読んでるの?」
「えっと、これです」
昨日と同じように、一回本を閉じて表紙を見せてくれる。『世界 伝説の生き物100選』昨日もこういう感じの読んでたな。オカルトとか好きなのか?
「そういうの、好きなの?」
「……好き、というか。…調べてて」
そう言うと、千鶴さんは本を開いてひとつの項目を指さした。
「不死鳥……?」
不死鳥って、あれか、フェニックス。ゲームとかによく出てくるやつ。
「そうです。…不死鳥って、死んでも蘇るんですよ。すごいですよね… もし本当にいるなら会ってみたいな、なんて。でも、生息地とか定まってないみたいで」
そういうの信じてるのか。ちょっと可愛らしいところもあるんだな。
「…あっ、ごめんなさい。こんな話聞いてたって、面白くないですよね。すみません……」
「いや、全然そんなことないよ。もっと話そう?」
それから、千鶴さんの不死鳥の話を聞いたり、他愛もない世間話などをして、午前中を過ごした。勉強はあんまり進まなかったけど、千鶴さんと話せるのが嬉しくて、そんなのは気にならない僕だった。
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