夏の終わり

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夏の終わり

はあ、夏休みも今日で終わり。あれだけ長いと思っていた夏休みも、意外とすぐに終わりが来るものだ。 こうやって夏休みの余韻に浸ることが出来るのも、宿題が全部片付いているからなのだろう。毎回、最後の一週間前まで宿題をためていて、そんなこと考えている時間が無かったからな。なんだかすがすがしい。これはエアコンが壊れて良かったかもしれない。余裕をもって宿題を終わらすことが出来たし、何より千鶴さんと出会えた。 ちなみに、エアコンは新しく買った。父と母の間でどう決着がついたのかはわからないが、とりあえず、もう家にいる時に暑さに悩まされることはない。久しぶりにゲームでもするか。我らがサッカー部の顧問による情けで、夏休み最終日の今日は部活がないのだ。自由っていいなあ。 ゲームは一時間もやったら飽きた。少し前なら何時間でもやっていただろうに。 最近、何をしていても頭の中には千鶴さんが浮かぶ。夏休み、毎日のように図書館で喋った。少しずつ、僕に心を開いてくれているようで嬉しかった。でも、相変わらず自分のことは話してくれない。質問しても、何故か上手くはぐらかされてしまう。 まあ、誰しも人に話したくないことはあるだろう。深追いはしないようにしているが、やはりどうしても気になってしまう。どうしたら、千鶴さんともっと仲を深めることが出来るだろう。 いっそ、告白してしまおうか。恋愛に疎かった僕にとって、こんなに誰かを好きになったことはない。僕の気持ちを素直に伝えたら、千鶴さんも真面目に考えてくれるんじゃないか。……こう考えてしまうのは早計か。でも、僕はもうこの気持ちを抑えきれる自信が無い。 もう、いいじゃないか。夏休みも終わりだ。きっとこれからお互いに、毎日図書館に通うなんてこともなくなるだろう。今日告白して、ダメだったらダメで、もう図書館に行かなければいい。そうすれば千鶴さんに会うことだってない。千鶴さんに対するこの気持ちにも諦めがつく。僕の気持ちを伝えないまま会えなくなるなんて、それこそ嫌だ。 思い立ったら、気の変わらないうちに行動しよう。適当に教科書をリュックに入れて、家を出た。 図書館に着いたのは11時過ぎ。学習スペースに行くと、いつもと同じ場所に千鶴さんはいた。だから僕もいつも通り千鶴さんの隣の席に座る。 「雅紀さん、今日も来てくれたんですね。嬉しいです」 千鶴さんの笑顔は、僕には眩しすぎる。 「うん、千鶴さんと喋りたかったから」 「私も、雅紀さんと喋りたいなって思ってました。でも、せっかく来てくれたのにすみません。私あと少しで帰るんです」 「……そう、なんだ」 はあ、今日に限ってなのか。人生ってそう上手くはつくられてないんだな。 「はい、ごめんなさい。兄が、今日は早く帰ってこいって」 どうしよう、あれだけ意気込んでここまで来たのに、いざとなると気持ちが揺らぐ。知り合って三週間ほどしか経っていないのに告白なんておかしいだろうか。振られて二度と会えなくなったらどうしよう。そんなこと覚悟して来たはずなのに、どうして迷う必要がある。 「あの、どうしたんですか?…すごく泣きそうな顔してますけど……何かあったんですか?私でいいなら聞きますけど…」 そうか、僕、泣きそうになってるんだ。こんなの亮に見られたら笑われるんだろうな。「お前結構めんどくさいやつだな」って。 もう、決めたんだ。告白するって決めたんだから。ここで逃げたらカッコ悪いじゃないか。 「あのさ、僕、千鶴さんに言いたいことがあるんだけど」 千鶴さんの真っ黒でキレイな瞳が、僕のことを真っ直ぐに見つめる。 「何ですか…?」 「僕、千鶴さんのことが好きなんだ。……その、……僕と、付き合って、ほしい。」 「…………え、」 千鶴さんのキレイな瞳が、一瞬、濁ったような気がした。 「夏休みになって図書館に通うようになって、千鶴さんのことを見つけて、一目惚れみたいな感じだったんだ。友達に協力してもらって、千鶴さんと話すことができたとき、すごく嬉しかった。もう明日から学校でしょ?きっとお互いに、毎日図書館に通うこともなくなるだろうし、会えなくなる前に、僕の気持ち伝えようと思って……」 ……全部、言ってしまった。もう恥ずかしくて逃げ出したい。でも、千鶴さんの言葉を聞くまでは動いちゃダメだ。 「……………っ、ごめん、なさい。……少し考えさせて…」 そう言うと、千鶴さんは荷物を持って走り去ってしまった。隣を通り過ぎたとき、千鶴さんは泣いているように見えたーー
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