愛の始まり

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愛の始まり

図書館に行くのはもうやめよう。そう思ったけど、やっぱり千鶴さんがいるかもしれないという淡い期待を胸に、今日も来てしまった。今日は土曜日だから、もしかしたらいるかもしれない。何だかんだ、僕は諦めの悪いやつなのだ。 でも、本当はわかってた。どうせ今日だっていないのだろう。ちょっと覗いたら帰ろうと思っていた。なのに…… 「……なん、で、ここに」 自然と声が漏れた。一番端の席に座っている、一人の少女が、ゆっくりとこちらを向く。 「……雅紀、さん…?」 いつもの席に、千鶴さんは座っていた。 「よかった!来てくれたんですね……!私、急に逃げたりして、酷いことしたから…… 嫌われたかもって思って。もう会えないかもしれないって思って。ずっとずっと悩んでたの…… ごめんなさい、本当に」 僕が口を挟む暇もなく、千鶴さんは早口で言う。 「あの、私なりに、あのときの答えを考えてきたんです。ここで話すのもあれですから、外に出ましょう?」 「あ、……うん」 会えると思っていなかったから、言いたいことが山ほどあるのに、驚きで言葉が出ない。とにかく、千鶴さんのあとをついて図書館を出る。 「……あの、これだけは勘違いしないで欲しいんですけど、あのとき逃げてしまったのは、その……、告白が、嫌だったからじゃないんです。むしろ、すごく嬉しくて…… でも、だからこそ、どう返事すればいいのか、わからなくて」 「……そっか、嫌われたわけじゃなかったんだね。よかった…… 急に、告白なんかしてごめんね。そりゃあ、困るよね」 「いやいや!雅紀さんが謝ることはないんです!……悪いのは、私で。原因は、全て私にあって…… っ、私が普通の人間だったら、こんなに悩むこともなくて…………」 「……? どういうこと……?」 「あの、私、決めたんです。雅紀さんには、すべてを打ち明けようって。私のこと、全部話そうって。……もし、私の全てを知って、私のことが嫌いになったら、そのときは、あの告白……取り消していいです。もう、会わないようにしましょう。だから今は、どうか私の話を聞いてください」 千鶴さんは、その真っ黒でキレイな瞳で、僕だけのことを見つめていた。千鶴さんがどんな秘密を持っているのか、まだ僕にはわからない。でも、千鶴さんの真剣な思いに、僕は答えようと思った。 「…………うん。わかった。いくらでも、聞くよ。千鶴さんの話」 「はい、ありがとうございます」 「あの……私、普通の人間じゃ、ないんです。そもそも人間でもないかもしれません。……普通の人間は、生まれてきて、死ぬときまで生きて、死んだら終わり。でも、私は違うんです。私は、その………… 不老不死、ってやつで。この姿で、もう何年生きてきたでしょうか。私一回、死んだことがあるんですよ。でも、いつの間にか、元の姿で蘇ってて。私は、死にたくても死ねないんです。 …………こんなこと言われたら、引きますよね。何言ってんだこいつって思いますよね。でも、これは本当の話で。信じられないなら信じてくれなくて大丈夫です。 とにかくこれが、あなたに隠していた、私の全てです」 全てを話し終わった千鶴さんは、静かに僕のことを見つめる。 千鶴さんは、不老不死で。死んでも死ねなくて。普通の人間じゃ、ない。…………どういうことだ。 「あはは、やっぱり、こんな変な女なんて嫌ですよね。安心してください。もう、あなたの前に現れることはないですから」 千鶴さんは、悲しげに笑って、立ち去ろうとする。僕は反射的に、千鶴さんの腕を掴んでいた。 「千鶴さんが不老不死だとかそういうのは、僕の頭の中でまだ整理がついてない。でも、千鶴さんがそんな変な嘘をついて、からかったり、困らせたりするような人じゃないのはわかってる。 それに、普通の人間じゃないから何だよ。そんなことで僕の、千鶴さんのことが好きって気持ちが変わるわけないじゃん」 気づいたら僕は、千鶴さんのことを抱きしめていた。千鶴さんは、僕の腕の中で、ただひたすらに、泣いていたーーー
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