さくらなんて

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 あれから10年が経ち、大学卒業後、就職した会社で何人もいた同期を見送って、気がつけば後輩達にお局と言われる存在になっていた。 「主任、今度の金曜日のお花見なんですが。」 「私は欠席で。」 「何か用事でも?」 「桜を見ながらお酒を飲む気にならないだけ。ほら仕事、仕事。」  後輩の話を仕事の理由にぶった斬るとパソコンの画面に意識を集中させた。  あの日から私は誰とも交際したことも友人とオフタイムを過ごした事がない。  付き合いで同期や同僚とランチしたり飲み会に行くだけだ。  予定なんて仕事以外、何もない。比較的飲み会の出席率がいい私が欠席と返事をするのが珍しいから後輩も驚いたのだろうが、桜を見ながらなんて不味い酒を飲みたくはない。  大学時代のゼミ仲間の噂で、咲良が数年前に本当に佐倉咲良になったと聞いた。私が智樹と付き合っていたのを知らない人達が『ネタみたいな名前だな』と笑い話にしていたのだ。 「どうせ私じゃサクラチルだったってことよね。」  私の名前は片瀬美智瑠(みちる)。桜が美しく散るってか。  あぁあ。一年で一番嫌いな季節がやって来た。
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