最後の希望

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 洋食屋さんで出会った住人さんの保護者は中高年の女性。  おしゃれで年相応の装いで来ているが、若干疲れが出ている。  娘の介護でいろいろと大変なのだろうと見受けられた。  住人さんの保護者を親と記さなかったのは、住人さんと保護者の間には特別な事情があるから。 「明日香は姪なんです。死んだ兄夫婦の娘で」 「そうなんですか。何かあったのですか?」 と湊さんが尋ねる。  最初に互いに簡単に自己紹介をした後、話の話題は住人さんこと明日香さんへ。  明日香さんの生い立ちが関係あるかもと保護者である叔母が語りだした。 「兄たちは交通事故に巻き込まれたのです。ひどい有様でしたが、明日香だけがなんとか無事でした。生きる希望ですね。ただ、もしかしたら明日香の心には自分だけが生き残ってしまった罪悪感があるかもしれません」 「そのことについて話し合ったことは……」 「一応カウンセリングを受けさせましたが、どこか線を引いているようでしたね。介護の仕事に就くと決めたのも、私たちを世話するためだとか」 「そうですか……。明日香さんの今の状況はいかがですか? 明日香さんが師匠に最後にあった人ですから私たちとしては話を聞きたいところですが」  闇が深い話だと私は思う。  その闇があるからこそ、怖いものに巻き込まれてしまったのだろう。  闇は怖いものを生み出す。  そう、卵みたいなもの。  怖いものがあるから闇があると言うけれど、闇があるから怖いものが生まれるという発言もある。  闇と怖いはどっちが先になのかわからない。  卵が先か、鳥が先かという問題。  この場合は明日香さんの心の闇が先に生まれているから、怖いものは後でやってきた。  もし明日香さんに交通事故の悲劇がなかったら、彼女は平和に生きれただろうなあと私は勝手に同情した。
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