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「あの、とりあえず。話をしますね。あなたの行動について勝手に推測したけれど」
と私は話を始める。
・過去に大きな事件があった団地でひどい目に遭ったこと
・霊能者である師匠と姉弟子が祈祷したらしいが、多分死んだこと
・明日香さんは心霊現象と過去のトラウマで精神をすり減らしたこと
を多分、そうだよねと確認しながら話しかけた。
「そうなの、私はすごく怖いのを見たり聞いたりした」
「その師匠からこういう話を聞いたことはありませんか?」
と私は卵の話をした。
怪異現象、心霊現象には発生源がある。
その発生源は卵のようなもので、みんなそれぞれ卵を持っている。
その卵から雛鳥が生れるように、割れていくと恐ろしい現象が起こるというものだ。
「それは聞いた。私にもあるって」
「その卵は……」
と私は明日香さんの頭を撫でる。
「あ、取れた」
と目の前に卵を見せた。
一般的にみられる鶏の卵のような大きさと見た目、ということは食べられるなこれ。
「え、あの、それって本当にさっきの卵? あなたが手品で出した物じゃなくて?」
「私は手品師ではありません。須川華子先生の弟子ですね。まあ、今は独立して普通の霊能者ですが」
と私はいそいそと卵をしまう。
卵掛けご飯にしようと夕飯の想像をしながら。
「大丈夫です。あなたは怖いことありません。もうあなたは過去に支配されることはないのです」
「え?」
「あなたの話をあなたの叔母さんから聞きました。もう、あなたはあなたの人生を生きてください。他人が口出してもいいのかわかりませんし、死者の言葉を勝手に語っていいのだろうかと悩みますが……言いますね」
さっさと卵を食べたい気持ちでいっぱいになった私は適当に説得する。
「あなたを幸せに願う人はいますよ。この世にもあの世にも。あなたの家族は幸せになってほしいと思っているはず。あなたがあなたとして生きれるのは一度きり、人生は長いようで短い。その……頑張ってください。私が言えるのはそれだけです」
これを言えば大抵の人は感動の涙でいっぱいになるだろう。
そのいい雰囲気のまま私は勝手に退場した。
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