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「もう一家に一台なんて古い!今は一人に一台の専用ドール!あなたの生活スタイルを完全にフォローします!」
大きなスクリーンに響く声。映し出されているのは最近のCM。
それを横目で見ながら会社の入り口から入った。
「すみません。研修で来たのですが…。」
「はい。お名前をどうぞ。」
「はい。もりやしほです。森に谷、志に稲穂の穂で森谷志穂。」
「はい。確認が取れました。32階へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
研修会場と書かれた場所の自分の名前が書いてある席につく。
…全て後手に回った。私の就職活動が。
こう、タイミングがすべて噛み合わず気づけば4月。ふと目についた求人広告に飛びついて今ここに私はいるのだ。
もちろんここは大手も大手の会社。
今一家に一台ドールと呼ばれる多能力型AIロボットが叫ばれる中、技術面で他とは一画を期するドールを売り出す会社。
その内情は1年間ドールプロデューサーと呼ばれる人が徹底的に依頼者に合ったドールへと指導をして成し得る緻密で、でも最高の技術。
もちろん値が張る為誰でも持てるわけじゃないが。
では、なぜこんな大手の会社の夢のある職業が求人を出しているか。
それは周知の事実であり、致命的な事実。
離職率が9割を超えるからである。
それだけでどれだけこの仕事が過酷であるかが想像出来てよっぽどの変人か、私みたいな取り残された人のみが就職するのだ。
始まった研修に居たのは30人程度。それでも、今年は多めだったようだ。
それから3日間私達は仕事内容、理念、守るべきことを徹底的に教えられた。
そしてすでにくたくたな中出勤して4日目。
与えられた一室に踏み入れた。
そこには既に一体のドールが待ち受けていた。
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
「こんにちは。これから1年間あなたをプロデュースします。森谷志穂です。志穂って呼んでください。」
「畏まりました。志穂様。私の名前の設定はいかがなさいましょうか?」
「あ、えっと。そうね。…No.G0404ってあなたのコード?」
「はい。個体識別番号です。」
「…4月4日。あ、ちょうど今日ね。今日の誕生花はカスミソウ…。
うん。あなたの名前はカスミにする。」
「カスミ、で登録いたします。」
「はい。よろしくお願いします。」
「よろしくお願い致します。」
握手のつもりで手を差し出すがそれを見る前にカスミは頭を下げる。
すれ違いに少し苦笑いしながらドールの手を引いて握手をした。
その手は、とても冷たかった。
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