救出

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救出

「無事か、ミーサ!」  子爵は馬車の護衛をなぎ倒し、ついに娘の場所までたどり着いた。 「……」  口を封じられているため何も発することができないミーサだったが、まさか襲撃者が自分の父親だったことに驚愕し、目を見開いていた。  子爵は素早く彼女の拘束を解いた。  後方では部下たちが必死に時間を稼いでいた。 「なにをやっているんですか、あなたは!!」 「娘を助けることに理由なんているのか?」 「あなたは、私を切り捨てるつもりだったのでしょう。何をいまさら親のようなことを……こんなことをすれば子爵家は取り潰されますよ。私のような(めかけ)の娘のために、あなたはいったい何をしているんですか!!」 「だが、お前は私の唯一の家族だ。たとえ、妾の子であっても唯一の娘に変わりはない。息子を失っている私にこれ以上家族を失わせないでくれ」 「家族? 今ごろそんなきれいごとを言っても無駄です。私を引き取ってから、あなたは何もしてこなかったくせに……母が私を連れ去ってから、私も探そうともしなかったくせに。本妻の子供が死んだから、私はただの代わりなんでしょう? 私はただの政略結婚の道具で……高貴な貴族を婿として家に連れてくるのが、あなたの望み。だから、私は王太子に近づいた。あなたの望みをかなえた結果がこの最悪の状況よ!! 私は若くして殺される」 「……」  子爵は、歯を食いしばって娘の言葉を耐えていた。 「何か言ったらどうですか!?」 「すまなかった。これは、私のわがままだ。お前を付き合わせてしまってすまなかった。ただ、これだけは最後の親の願いだ。生きてくれ」  子爵は娘を無理やり馬車から連れ出した。そのまま穴が開いている場所まで連れていく。 「何をするんですか!!」  子爵はミーサの手に魔宝玉を握らせた。それは数少ない移動式宝玉で、遠くの場所に瞬間移動が可能になる。ただし、あまりに効果であり入手には貴族の豪邸を買うのと同額だと噂されていた。 「いいか、この穴から落ちたらすぐにこの宝玉を使え。これなら、お前を逃がすことができる。この宝玉の行き先は、私だけしか知らない隠れ家だ。金や食糧はそこに用意してある。あとは、うまくやれ……」 「なっ!!」 「お前とはもっとゆっくりと話をするべきだった。親失格だ」  部下たちを撃破した内務卿が、二人に向かって弓を射る。  子爵は逃げることなく、背中でそれを受け止める。 「ぐっ。だが、もはや時間がないな。さらばだ、ミーサよ」  子爵は最後の力を振り絞って、彼女を川へと向かって突き飛ばす。その瞬間に、移動宝玉は発動し、ミーサの姿は消えていく。子爵は、ローブに包んだ愛剣を落下させることで、あたかも娘が川に落下したように偽装した。  満足そうに笑う子爵に対して、内務卿たちの攻撃が殺到した。  ※  マリアとラファエルのふたりは、グランドブールの入口を通る。城壁の中と外ではまるで別世界だった。  夕方にもかかわらず、魔力による灯りによって街は輝き続けている。  住民のほとんどが魔力の使い手であり、魔力が最も発展した場所で、製作が難しい魔法石を量産可能だからこそできる芸当だった。  この魔法石は、製作も難しくさらに故障しやすい。さらに、魔力の補充も定期的に必要なため、グランドブールのような魔法都市でなければこの数を維持ができない。 「すごい、綺麗ですね。まるで、夜が来ない街みたい」  マリアは輝く街を見て、目を輝かせた。 「まだ、お祭りも始まっていないのに、普段からこんなにきれいなんですね。お祭りの時はこれ以上に明るくなるそうですよ!」   「これよりも明るくなるの!? 私はもう、お祭りが始まってしまったのかと思ったわ」 「さきほどの守衛さんに聞いたら、今年のお祭りは明日の夜かららしいです。楽しいカーニバルになるようですね」  グランドブールのお祭りは「魔力祭」として有名だ。  魔力によってあたり一面が輝くようになり、さらに街が誇る有力魔導士たちがデモストレーションで新作魔術などを披露する。  もともと、この街は少数派だった魔導士たちが協力して生き残るために建設された場所だ。少数の魔導士は、いつ迫害を受けるかもわからない。だからこそ、魔導士たちは協力して団結して生き残るために必死だったのだ。  そして、この場所を住みやすいために少しずつ改良していき仲間を増やしていき、国内最大の魔法都市になったのだ。 「お腹、すいたわね」  彼女は恥ずかしそうにそう言った。昼食は、馬車で保存食を食べたくらいで軽く済ませてしまったので余計に空腹だろう。  公爵家の当主が、こんなに率直な言い方をしていることが驚きと言えば驚きだ。それほどまで、ラファエルを信頼していることの裏返しだが。 「なら、夕食にしましょう。この街は、家庭料理が美味しいらしいですからね。美味しい家庭料理を出してくれるバーを教えてもらったので、そちらに行ってみましょうか?」 「ええ!! ここは隣国とも距離が近いから、外国文化の影響も強いのよね? 魔女の料理って絵本で見たことはあったけど、ずっと憧れていたのよね。楽しみだわ」  魔女の料理と言っても、怪しい動物や珍味が入ったものではない。  どちらかといえば、薬草などに使う香味野菜やハーブをたくさん使う料理だ。ワインも多用される。  この街は煮込み料理が中心で体も温まるものが多い。寒い季節にはピッタリだ。  ふたりは新しい料理を楽しみに前に進んだ。
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