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祭りの朝
そして、夜が明けた。
マリアとラファエルはずっと話していて、いつの間にか眠ってしまったようだ。
幸せな夜更かしになったふたりはちょっと遅くに目が覚めた。
ラファエルが先に起きると、その物音を聞いて、マリアも目覚めた。
ふたりは昨日の夜のことを思い出しながら、恥ずかしい気持ちになったができるだけそれを心の中に閉じ込める。
体温が上がりそうになるのを必死に抑えて、マリアは水差しからコップに水を注いだ。水差しの取っ手は信じられないほど冷たくなっており、中の水も常温とは思えないほど冷え切っていた。
しかし、彼女にとってはそのほうがちょうどよかった。凍てつく空気によって冷やされた水が、熱をもった体にはちょうどよい。
そして、ふたりはゆっくりと外を眺めた。一晩、振り続けた雪が、外の世界を銀世界に変えていた。朝日は銀世界によって反射し続けている。
「まるで、昨日の夜から、私たちは別の世界に転移してしまったみたいですね」
マリアは昔読んだ冒険小説を思い出しながら笑った。その様子はまるで、庭に積もった雪を見た子供のように輝いていた。
「ええ、とてもきれいな景色ですね。お嬢様とこのような素敵な朝を迎えることができてよかったです」
少しだけ意味深な発言を聞いたことで、マリアは赤面してしまう。
それを気づかれないように、顔を窓の方向に隠す。
「……どうして、そんな風に紳士的でいられるのよ。私は、昨夜から余裕がなくて大変だったのに」
彼女は聞こえないように小声で可愛らしい不満を口にした。もちろん、ラファエルも余裕はないのだが、彼女はそうだとは気づかない。
「どうしましたか?」
主人の様子がおかしいことに気づいたラファエルは首をかしげる。
「大丈夫よ。ねぇ、ラファエル様? 私って実は、あまり雪で遊んだことがないのよね」
もともと、王都はここよりも温暖で雪はなかなか降らない。さらに、マリアは貴族の一人娘で転んでけがをしたら大変だと、家の者たちが彼女を雪の日に外で遊ばせないようにしていた。
だから、こんな好機はほとんどない。
マリアは珍しく少しだけ遠回しに彼を誘った。せっかくの雪の日だから、好きな人に誘われたい。そんな女心がないといえばウソになる。そして、優秀なラファエルはそんな可愛らしい気持ちをすぐに察した。
ここで誘わないわけがない。
「では、お嬢様。私と一緒に雪の街を散歩しませんか?」
待ちに待った言葉を聞いて、最高の笑顔になった彼女は「はい、喜んで」と即座に答える。祭りの朝が始まる。
※
ふたりは宿でトーストと卵、サラダの簡単な朝食を済ませると、すぐに街に出た。
古い街並みはすっかり雪化粧を施されている。パラパラと振り続ける白い結晶が、さらに幻想的な世界を作り出す。
「やっぱり、吐いた息が真っ白になりますね」
「ええ、本当に寒い」
ふたりは一応、馬車に用意しておいた防寒着を着こみゆっくりと街並みを歩く。凍てついた道は、油断するとすぐに転んでしまいそうになる。
「こんなに雪が降ってしまって、お祭りは大丈夫なのかしら?」
「ああ、それは大丈夫ですよ。なんでも、お昼を過ぎたら担当の魔導士たちが除雪作業をするそうです、魔力で」
「そうなんだ。なら、安心ね」
黒のローブを着た魔導士たちが、お祭りの準備をしていた。建物の間に魔道具を設置したり、木に飾りを巻きつけたりしている。これがお祭りの時には綺麗なものになるらしい。マリアは、噂に聞いていた魔導士たちの祭りがもうすぐ始まることにとてもワクワクしていた。
絵本の中で憧れた世界が、もう目の前にあるのだ。
情景に心を奪われていると、元気な子供たちが二人の横を通り過ぎた。雪道をとても器用に走っていく。
大きな声で無邪気に笑う子供たちに、マリアは心を奪われた。子供たちが幸せそうにしているだけで、心が満たされる。
「雪だるまを作ろうよ」
子供の一人がそう言うと、みんなが「うん」と言う。雪だるまという言葉が、マリアの心に刺さる。
ずっと友達とあんな風に遊んでみたかったという願望と、子供たちと同じようなことをしたいと思うのが恥ずかしいと感じる複雑な2つの気持ちに揺れ動く。
それを察して、ラファエルは言った。
「私たちも作りましょうか?」
「えっ!?」
「子供たちが楽しそうにしているのを見て、童心に帰りたくなりました」
「忖度?」
「いえ、私がやりたいだけですよ」
「ありがとう。でも、子供っぽいって思わないでね?」
「ええ、思いませんよ」
「本当に?」
「本当に!」
そうやって少し恥ずかしそうにしているマリアを見ながら、ラファエルは目を細めた。
「やっぱり、そう思っているじゃないですか……ラファエル様のバカ」
「ごめんなさい。お嬢様があまりにも可愛らしい反応をするので、つい……」
「もう……えっ、"可愛らしい"?」
先ほどの言葉に後から気づいて、赤面を始める彼女を横目で見ながらラファエルは雪に手を伸ばす。ラファエルは手際よく雪を固めて大きめの雪玉を作る。これが雪だるまの基礎となる部分だ。
「さぁ、お嬢様! 作りますよ?」
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