3人が本棚に入れています
本棚に追加
7.俺の気持ち
夏休みになった。だが俺は塾の夏期講習に行かなければならなかった。高二の今のうちから受験に向けて勉強しておけ、ということらしい。
ぐったりとして歩く塾からの帰り道、白鳥と天野に会った。
「彦根くん、生きてるー?」
「死んでる」
「しっかりしろよ、まだ講習続くんだろ。お、あそこにいるの、織部じゃね」
天野が示した先を見ると、確かに織部がいた。一緒にいる女性と親しげに話している。女性の背は高めで、織部と同じくらいある。色が白くて、まつ毛が長かった。
「そっとしとこうか」
「彼女いたのかよ。羨ましい奴だな」
天野がきししと笑う。
「彼女……」
なんだろう、この気持ち。知らない織部がいるショック? 俺は織部のことよく知ってるって、勝手に思ってたのかな。
「おーい、彦根どうした? あっ、もしかしてあの彼女に惚れた? 今度は織部と女の子の取り合いか?」
天野が俺の顔の前でパタパタと手を振るが、あえてスルーした。
俺が織部にとって特別なんだと思ってた。でもそうじゃなかった。それがこんなに空しい。これは、もしかしたら。
最初のコメントを投稿しよう!