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九月一日がやってきた。学校までの道を鬱屈した気持ちで歩く。
登校すれば織部と会ってしまう。避けようと思っても、クラス一緒だし、購買とかで絶対また鉢合わせするだろう。
俺はあの後自分の感情について考えていたが、織部のことが好きなんだと思う。
隠し続けていた自分自身を見せてくれて、照れ屋なのに俺に気持ちを頑張って伝えてくれた彼に惹かれていたのだ。でも気持ちに気づいたときにはもう失恋していた、ということか。
「おーい、おはよ!」
後ろからやってきたのは天野だった。適当におう、と返すと、なんだ元気ねえな、と言われる。
「おはよう」
会いたくない相手がやってきた。
「よう織部。夏休み中は楽しそうだったな。彼女と歩いててさ」
天野よ、一番聞きたくない話題を振るんじゃない。
「何のこと?」
織部は首をかしげる。もはやこれすらちょっと可愛く思える。
「女の子と喋ってたじゃんか、髪長くて、色白で、背の高い」
「ああ、姉さんか」
「……姉さん?」
俺は呆然として呟いた。
そういえば、織部とあの女性は少し似ていたな。色白なところとか。
「そう。大学生で、一人暮らししてるんだけど、夏休みこっちに帰ってきててさ」
「彼女じゃないんかーい! じゃあ紹介してくれよ」
「残念、姉さん彼氏いるから」
大げさに頭を抱えてみせる天野を尻目に、俺はほっとしていた。
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