3.最後の一個のフィギュア

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 お菓子売り場に向かい、食玩の並んでいるあたりを探してみる。  あった。パッケージの表面に主人公のヒーローが写っている箱が、一個だけ残っている。  最後の一個か。今日から発売だし、子どもが買うのはもちろん、怪人であるエレテスのフィギュアは珍しいので買おうとしている大人も多いみたいだったからな。残っていてラッキーだ。  その箱に手を伸ばすと、まったく同じタイミングで伸びてくるもう一つの手があった。  まさか。  そう思ってそちらを見ると、信じられないことに織部がいた。  向こうも「まさか」という顔をしていた。 織部は俺を睨むと、ぱっと手を引っ込めて、踵を返そうとする。 「ちょっと待てよ、じゃんけんとかいいのかよ」  昼に焼きそばパンは取られたんだからこれは譲ってもらってもいいような気がしたが、織部がなんだか慌てているのが気になった。 「いいから」 「まあ待て、公平な勝負を重んじるエレテスを、不公平な状況で手に入れたら、俺がエレテスに怒られそうじゃないか」 「なにそれ」  結局じゃんけんをした。今度は俺が勝ったので、無事(と言えるかわからないが)買って帰ることができた。  帰って開けてみると、箱の中にいたのはエレテスだった。 「ちゃんと勝負したから俺のところに来てくれたのか? なんてな」  俺はフィギュアを机の上に飾った。  そういえば、織部もアステリズム好きだったんだな。そうじゃなきゃわざわざ買いに来ないだろうし。それか、弟か妹にでも頼まれたとか?
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