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人に溢れた購買の中で、パンコーナーに辿り着く。カツサンドは一個だけ残っていた。
俺はすぐに手を伸ばさず、周囲を見回した。
予想通り織部がいた。彼は俺と目が合うと、視線を逸らした。
なぜそんなに気まずそうなんだろう。もし織部が勝負に勝ってフィギュアを買えていたなら、俺に対して気まずいというのはまだわかる。
それなのに、なんでだ? 逆に俺の方がちょっと気を遣いたくなるくらいだぞ。
「今日はお前に譲っとく。昨日欲しかったエレテス引けたし」
「! そうなんだ。……よかったね。……じゃなくて」
織部はなぜか目を泳がせている。エレテスの名前を出してこの反応、多分アステリズムを知ってるんだろう。やっぱり誰かに頼まれてとかじゃなく、自分が欲しくてフィギュア買いに来てたんじゃないのか。
「まあ、ありがと」
俺が考えているうちに、織部はカツサンドを買って去って行った。
きゅうりと卵のサンドイッチを買って戻った。
「おかえり。あ、もしかしてまた織部くんに負けたの?」
「ちげえよ。今日は譲ってやったんだ」
そんな話をしながら俺は考えた。
織部は転校してきてから、自分のことを一切話さない。でも、もしかしたら俺と同じものが好きなのかもしれない。というか、これだけ選択が被るなら好みが似ている可能性は高い。
そしてふと思った。織部のアステリズムでの好きなキャラとか聞いてみたいな、と。俺にとってそれは、相手のことがもっと知りたい、ということだった。
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