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1.最後の焼きそばパン
お昼の購買部は、人でごった返している。俺はぎゅうぎゅうに詰まった人々の間に身体をねじ込みながら進んだ。
目当てのものがあるのはパンコーナーの上から二番目だ。そこへ目をやると運よく、最後の一つの焼きそばパンが残っている。
ここ三ヶ月で何度も体験した状況だ。ということはこれから起こることも予想がつく。
「今のうち!」
つぶやいて手を伸ばす。
それとまったく同時に、焼きそばパンにもう一本手が伸びていた。骨ばっているが白くて指が長い、見慣れた手だ。
「またあんたか」
その手の持ち主である織部光は俺を見て、形の整った眉を寄せて小さく舌打ちをする。
「そっちこそ! 今日は間違いなく、俺のほうが早かったぞ」
織部が転校してきてからの三ヶ月間、ずっとこんなやりとりをしている。
ごったがえす購買の中でそれ以上押し問答をするわけにもいかず、すばやくじゃんけんをする。
「もらい」
俺とのじゃんけんに勝った織部は、にやりと笑って焼きそばパンの袋を手に取った。
悔しいことに、奴の得意げな笑顔は、華麗な手口で宝物を盗んだ怪盗のようで、妙にさまになっていた。
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