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美しい
そこでむらさきは、自分以外の野良式神となってしまったものたちを集め、ここに野良式神が落ち着くことの出来る楽園を築くことに決めたようだった。
だがしかし、必要な「家主」が見つからない。
人心の悪行、善行を伝え、衰え行く屋敷の維持を行う「人間」を求めていた。
そんな時、近所のアパートから人生にくたびれているかのような女性が、キチ○イのようにバカ笑いをしながら酒を浴びるほど飲んで自害しようとしているところをたまたま見かけた。
人間でも、命の終わる瞬間には、式神である自分の姿を見ることが出来る。
頼んでみようと、さっそくむらさきは私のアパートへとやって来たのだそうだ。
彼は、見目麗しい長身の鬼神で、いつの時代のものかはわからないけれど刀を一口、腰に差していた。
もしかしたら私よりも若い人間を模しているのか前髪は揃っており、いわゆるポニーテールに結われた黒髪は確かにほんのり紫色の艶に濡れている。
烏帽子は被っていないのに、服装の方は狩衣だった。
「…ぼんやりもするよ、綺麗だね、むらさきは」
「君だって綺麗だろう。命あるものは美しい」
うるせえな。
そうじゃない、そうじゃないんだよ。
その美しい、には、命あるもの全員、が含まれていて、私たった一人に向けられているものではないのだ。
私をさ、私のことだけをさ、綺麗だの美しいだのと言ってみて欲しいのに。
じゃなきゃ、社会と断絶された暮らしをしている癖に、髪を整えて化粧をしている意味がない。
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