式神

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式神

 むらさきは、式神だったのだと言う。  過去形なのは、今はどのようなであるのか、自身でもわからないから説明しようがないのだそうだ。  式神とは、陰陽師が使役する鬼神らしい。  しかし私は、鬼神が何なのかも詳しくは知らないし、陰陽師に関する知識もない。  調べる時には文献ではなくてネットの検索エンジンを使用する、風流もワビサビも理解していない私に、はじめむらさきはため息をついたけれど、私を家主に選んだのはそっちじゃん。  とにかく、式神ってのは、人心から起こる悪行や善行を見定める役を務めるもの、であるらしい。  そのような役目を持って生まれ、しばらくの年月は自分を作り出した陰陽師の命ずるまま、都を守っていたけれど、ふと気がついた時には時代は変わっており、主であった陰陽師も亡くなっていた。  そしてむらさきは、自分が野良式神となっていたことにひどく困惑した。  この先、何をして与えられた時を過ごして行けば良いのかわからない。  世の中には、相変わらず悪行も善行も山のように溢れていると言うのに、報告する相手がいない。  つまり、落ち着かない。  ふらふらとさ迷いながらも、この一軒家に郷愁を感じた為に、棲み家とすることにした。  どうやら主であった陰陽師の子孫の住んでいた屋敷であったようだけれど、もう今は誰もいない空き家となっていた。
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