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無理がある
八つ当たりももう何度もした。
いい加減怒ってくれていいのに。
下唇を突き出して、ぶっさいくな顔をして上半身だけ振り向いてみせる。
ほら、やっぱりむらさきは、綺麗だ。
「んー、そりゃね。ぼんやり、癖だなあ。ダメだとは思うんだけど」
「わかっているなら努力しなくては。さあ、お疲れ様、お茶を持ってきたよ、どうだ」
机の上に散らばった紙や写真を人差し指と親指の間に挟み込んで雑にまとめると、分厚い本で重しをする。
そのまま障子、開けておいて、と声をかけたのにパタンとしめられてしまう。
橙を遮る白の、隙間を埋めるあみだくじ。
ずいぶんと正しく長方形をどれもこれも、同じ形へと区切っているそれ。
行き先はみな同じ、私の恋のように畳にめりこむだけ。
「ありがとね!むらさきは、今日はどこへ行ってきたの。報告がないってことは、非番だっけ?…どうしたの?私の顔見たくなったの?」
「非番の日に、家主のことを気にかけることは悪いことかな」
「ううん、嬉しいよ」
私の顔見たくなったの、の質問がスルーなのは哀しいけれどこの際いい。
仕事に集中できていないわけじゃないし、頼まれている「暮らす」ことも、疎かにはしていない。
みんなの命、野良式神ちゃんたちの人間らしい命を、できうる限り守りたい。
穏やかな屋敷での生活には、血の匂いも厳しさもつきもので、あまりにも度をこした悪行には、現場をおさえ、現代の罰をもってして償ってもらわなければならない。
なんの覚悟もなくこの屋敷にやって来た私は、いつの間にやら警察官の皆様からは「また通報者は貴女なんですか!」と言われ、不審にすら思われはじめている。
さすがにそろそろ、たまたま悪行を見かけた私からの通報、じゃ無理が出てきた。
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