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「……なに、どうしたの?」
ミコトが神妙な面持ちで、じっと見つめてくる。
「もう騙されないわよ」
またなにか企んでいるのかと、沙雪も上から瞳を覗き込むように見つめ返す。
するとミコトはキュッと口を結び、上目遣いで沙雪をじっと見つめる。
その表情にフンと鼻で息を吐き、腕組みをする沙雪。
それを見たミコトは頬を膨らませ、眉間に深く皺を寄せる──。
「フフ、なによその顔」
たまらず吹き出した沙雪に、ミコトは顔を綻ばせた。
「なんだかバカらしくなってきちゃった」
沙雪のなにかが吹っ切れたような笑顔に、ミコトは安堵の表情を浮かべた。
ここ数ヶ月、沙雪の表情はなにかを抱えているように重くなっている。
今日もいつもより遅い時間に帰って来た。
理由を聞くことは、容易なことではある。
しかし、それをしようとすると筆は鉛のように重くなり、胸は不穏な音を掻き立てる。
そんな気持ちを、声が出せない代わりに、筆で伝えようと文字を綴る。
『沙雪ちゃん、おかえり』
「フフ、なによ今さら」
気持ちをどう表現していいのかわからないミコトは、悟られないように窓の外に目をやった。
降り積もる雪は淡々と、人の少ないこの村を毎年同じ景色に変え、沙雪と出会った頃を思い出させてくれる。
しかし今年の雪は違う。
見ていると埋もれてしまいそうな、今ある世界がどこまでも白く染まり、なにもない、真っ新な状態に戻ってしまうような。
そんな不安な気持ちにさせてくる。
「雪、きれいだね……」
冷たい窓越しに映る沙雪の、どこか儚くて美しい表情に、ミコトはただコクリとうなずいた。
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