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翌朝、沙雪が学校へ行ったあと、ミコトは神社の裏手にある祠に向かった。
「あらあら、どうしたの? そんな顔しちゃって」
ウズメは暗い顔のミコトに、迷子にかけるようなやさしい声で問いかけた。
「ウズメ様、自分でもわからないのです。どうしようもなく、不安なのです」
「あら、それは大変。話してごらん、ミコトちゃん」
ミコトの言葉ひとつひとつにウズメはうなずきながら、時折りポンポンとミコトのおかっぱ頭に手をやった。
なにかあればいつも相談してきた相手だ。
言葉を通わせることができるウズメは、ミコトが物心ついたときから、いつもそばにいた。
寒いあの冬の日、沙雪がこの村に来た日も言ってくれたのだ。
「ミコトちゃん、やっとこの村にお友達が来たみたいよ」
「でも、どうやってなかよくなれば」
「そうね、あの子は……ちょっといたずらでもしてみれば?」
「そんな、きらいになりませんか? ミコトのこと」
「……あの子は優しいし、強い子だから。大丈夫」
「ほんとうですか?」
「本当よ。それに、そうでもしないと、今のままだと心を開いてくれないかもしれないからね、あの子──」
この村で唯一近い年ごろの沙雪と仲良くなれたのも、そんなウズメの助言があってのことだった。
ポツリポツリと話すミコトの言葉は、なにかを誤魔化すために、言葉を選んでいるように聞こえた。
それに気づきながらも、ウズメは穏やかな顔で聞いていた。
「そうね、ミコトちゃん」
一通り思いを告げたミコトに、ウズメは少し物憂げな表情を浮かべた。
「そろそろあなたに、言わないとね」
ミコトは目を伏せ、口を結んだ。
この村の伝承にある言葉が、嫌というほど頭の中に響き渡ったのだ。
わかってはいた。限りある時間だったのだ。
もうじき全てが美しい雪のように、白く染められる。
大切な思い出さえも、真っ白に──。
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