その足の下には

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卒業式の帰り、俺は桜の根元を掘り返していた。指に血がにじんでも、ひたすら掘った。 穴の中に白く光る粒を放り込む。 へし折ってやった友達の歯と、殴り返された俺の歯。 前から様子がおかしかったけど、何も言わないから聞かなかった。 どの学校を受験するのか聞いても、お前には教えないとか、そういう素っ気ないことばっかり言うのが腹立ったから、俺も教えなかった。 別に、ベタベタ同じ学校に行く必要も無いし、どうせそのうち分かる。 だから別に気にせず笑って遊んで、勉強して過ごしてた。 そしたら卒業式の後、突然、明日町を出ると言い出した。 親の転勤らしい。何で黙ってたんだよ、と苛立った。奴は別にいいだろ、と言い捨てた。 どこに引っ越すんだよ、それくらい教えとけよ、遊びに行ったっていいだろ。俺の言葉に、あいつは、遊びに来るな、会いたくない、と。言い捨てた。 連絡もしてくるな、SNSもブロックする、と。お前ほんとはムカついてたんだよ。いい機会だからもう縁切ろうぜ、と。 俺はショックを受けた。だけど同時に、おかしいと思った。 昨日まで普通に過ごしてたのに、本心はそうだったなんて、信じられなかった。それに奴はずっとうつむいていた。嫌みったらしく言うものの、決別を突きつけるには、気迫が足りない。 どういうことなんだよ。本気で言ってるのか。何か理由があるんじゃないのか。俺が何をしたんだ、と。 しつこく食い下がる俺に、奴は白状した。 本当は難しい病気で、治療のために病院を移る。たぶん二度と帰って来ない。 気づいたら殴っていた。俺たちは涙目になりながら掴みあい殴りあった。 蕾がほころびはじめた桜の木の下で、苛立ちをぶつけ合った。 なんで黙ってたんだ。怒鳴る俺に、普通でいたかったとあいつは叫んだ。 この町で、ここにいる間は普通でいたかったのだと。お前に気を遣われるのは嫌だったんだと。 俺は何も言えなくなって、ムカついて、またあいつを殴った。 あいつの一部を埋める。 いつか桜が歯を養分にするだろう。そしたら俺たちはずっとここにいられる。 桜の木の下に座り込んで見上げる。去年はあいつもここにいた。 花が咲いても、花が散って葉っぱになっても、その葉っぱが赤くなって散っても、あいつは戻ってこない。 咲くのを待ち望んでいた桜の花が、恨めしくなった。 それから俺は、一人で笑った。
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