4.雪ん子は、中学生

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4.雪ん子は、中学生

(雪ん子は、中学生)  そして、この日を切っ掛けにして、鈴子は雪ん子の身元引受人になることにした。  雪ん子では、さすがに世間では通らないので名前を大野雪子とした。 三月、温暖化なのか、例年になく雪は少なく、暖かだった。 このころになると、雪ん子は人間らしく温かいお風呂にも入れるようになっていた。 「あっ、ごめん……!」  武は、お風呂のドアを開けたまま、お風呂の洗い場で石鹸のシャボンにまみれた雪子を見た。 「なーに、一緒に入りたいのー?」  裸のまま、ドアを開けて立ち尽くす武に言った。 「いや、ごめん!」  その声で、武は慌ててドアを閉めた。  よく見ると、洗面所の洗濯物の籠の中に雪子の衣服が入っていた。  武は、気もそぞろに服を着ると、台所で夕飯の支度をしていた鈴子に言った。 「雪子、って、幾つ……?」 「さー、わからないわー」  武は冷蔵庫から牛乳を出してコップに注いだ。 「でも、家に来たときは、小さかったよね……?」 「そうねー、……」  しばらくして、雪子は裸のまま浴衣一枚着流して台所に入ってきた。 「お兄ちゃん、お風呂、空いたわよー」 「雪子、ちゃんと浴衣着てから出てくるのよ!」 「はーいっ!」  そう言われて、雪子はその場で帯を口にくわえると、浴衣を開いて、右、左と合わせて着直した。 「武、何見てるのよー、お風呂、入るんじゃなかったの?」  さっきから、じっと雪子を見ていた武を、鈴子は追い立てた。  そのことは鈴子も心配していた。  もう幼児では通らない。  三月も終わりに近づいてきたころ、静子は児童相談所の女の人と小学校の校長室に来ていた。 「この子ですが、迷子なのか、身元が分かりません。元居た所の記憶もないようです」  相談所の女の人は、校長と六年担任の先生に事情を話した。  六年担任の女の先生は、雪子を見るなり…… 「ちょっと六年生には見えませんが、年齢も分からないですよねー?」  相談所の女の人は、いきなり大きな声で笑って答えた。 「そうですかー? 私には三、四年生に見えますが、初めて会ったときは、もっと小さかったんですよー!」  相談所の女の人は笑いが止まらなかった。  話していて、自分でもおかしなことを言っていると思い返していた。  六年担任の先生は、持っていた国語の教科書を雪子に渡した。 「ちょっと、どこでもいいから読んでみせてー?」  雪子は、すらすらと朗読した。  次に先生は、近くにあった新聞を雪子に渡した。 「新聞は、読めるかなー?」  雪子は新聞もすらすら読めた。 「難しい漢字も読めますので、中学校くらいは行っていたと思いますよー」 「先生、初めて会ったときは、名前も年も、言えないくらい、こんなに小さかったんですよー!」  相談所の女の人は、笑いながら、手をかざして大きさを表した。 「でも、小学生でも成長の早い子はいますけど、雪子さんの場合、体つきを見ても、中学生ではないでしょうか……」  相談所の女の人も、雪子をもう一度見て笑いが止まった。 「そうですねー」  その間も、鈴子は黙って成り行きを見守っていた。  でも、最後に…… 「でも生理は、まだ来ていないようですけど……」とぽつりと言った。  三人は、その足で、棟続きに並んでいる中学校に向かった。  そして、中学校の校長室…… 「事情は聴きました。そういうことでしたら、中学一年生か初めてはどうですか、多分、記憶喪失とか、何かの病気でしょうー」 「よろしくお願いします……」  三人は頭を下げた。  帰り道、相談所の女の人は、笑いながら急いで車に乗り込んで帰るところが奇妙だった。  でも、ひとまず雪子の年齢の問題は解決した。  大野家では夕食どき、祖父が大喜びではしゃいでいた。 「やっぱり、見る人が見るとわかるんだなー、どう見ても雪ん子は中学生だよなー、そりゃー、武よりしっかりしているもんな―」  武は、もう驚くこともなく、一度目線を雪子に向けてから、またテレビを見ながら、茶碗を抱えた。 「武、四月からあんたと同じ中学校だから、ちゃんと面倒見るのよー!」 「……、わかってるよ!」  武は、テレビから離れず、ひとこと言っただけだった。 「面倒みられるのは、武の方じゃないかー」  祖父は笑って、冷やかした。 食事が、終わって台所片づけをしながら、雪子はつまらなさそうに鈴子に言った。 「学校なんか行かなくてもいいのに……、私、お母ちゃんの側にいたい!」 「そうは、いかないのよ、子供は学校に行かないといけないのよ! 義務だから……」  鈴子は、食器を洗いながら言った。 「でも、また一人で病院、いくんでしょうー」  雪子は、それを乾拭きして、食器棚に収めながら言った。 「そうね……、私は大丈夫よ。しっかり勉強してきなさい。学校は楽しいわよ。それで友達いっぱい作りなさいー」  それを聴いて、雪ん子には珍しく、大きなため息が一つ漏れた。
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